※二人で寮生活中










「なあ観月、俺がお前に隠し事してたらどうする?」
「はあ?何か隠してるんですか」
「まあそれはとりあえず置いとこうぜ」

観月は洗濯物を畳む手を止めて少し顔をしかめながらじっと俺を睨んだ。ニ、三秒の沈黙を破って口を開く。

「許しません」
「へえ?」
「赤澤君が僕に隠しているつもりでいることはすべて把握済みだと自負していますが、僕の裏をかいてまだ何か隠しているというのなら許す訳にはいきませんね」
「随分な自信だな」

観月は得意げに笑ってまた俺のTシャツの皺を伸ばし始めた。アイロンをかけたみたいに綺麗に畳まれたユニフォームが脇に置かれている。

「ぼさっと見てないで手伝ってください」

俺は間の抜けた返事をしてとりあえず近くにあった靴下を手に取る。もう片方を探して洗濯物の山を探ると、目の前に俺が探していた靴下がつき出された。

「ほら、もう本当に要領が悪いんですから」

左手で靴下をつき出す観月の右手は、俺と同じく洗濯物の山の中に突っ込まれている。

「あ、俺とお前同時に同じもん探してたのか」
「偶然ですね」

たいして興味もなさそうに答えながら観月の手はてきぱきとタオルを畳んでいく。二枚、三枚と重なっていくきっちり畳まれたタオルは全部俺のものだ。

「なんかいつも俺の分ばっかり悪いな、観月」
「どうしたんですか急に。洗ってない洗濯物が部屋に積まれているなんて考えただけで虫酸が走るんですよ」
「ああ、まあ、そういうお前の潔癖も分かるには分かるんだがな?」
「感謝してくれているのか微妙ですね」

口では観月に勝てないんだよな、とひとりごちて俺もパジャマを畳んだ。その畳み方は違うとか靴下を丸めるなとか、ぐちぐちと言い募る観月を笑ってやり過ごせるようになったのはいつからだろう。

「さっき、俺が隠してる事全部知ってるって言ったよな」
「言ってあげましょうか、例えば私の水色の花瓶をひっくり返したこと、紅茶の缶をひっくり返して中身を…」
「あー、やっぱりやめてくれ、すまん」
「反省してるならいいです」

それにもう怒るタイミングを逃しましたから今さら追及する気もありませんしね、と小さくため息をついてまた俺を少し睨んだ観月は、全部の洗濯物を畳み終えていた。

「紅茶、飲みますか」
「ああ、頼む」
「君が一度台所でひっくり返した茶葉ですけどね」
「…すみませんでした」
「考えてみれば君はものをひっくり返しすぎです、いつも無駄に焦っているんじゃないですか?それともただ大雑把なだけなんでしょうかね、いつも注意していればこれくらい回避できるはずです、僕は…」

ぺらぺらとよく動く口だなあと思って聞いていたらミルクの用意をしてくださいと言われたのに反応が遅れた。聞いてるんですか、とつき刺す視線に促されて俺は牛乳パックを冷蔵庫から出して待機した。

ポットから立ち上る湯気を見つめて思う。観月、俺がお前のことをどう思ってるか知ってるか。知らないだろうな。許してもらえないかもな。いっそお前が好きだって口に出して言えたら、もっと楽になれるのになあ。











妙な質問をされた。隠し事があったらどうする、と言う。僕は答えに迷って、許さないなんて冗談半分に言ってしまったけれど、本当のところ赤澤について僕が知っていることなんてほんの少しだ。いくらいつも一緒にいるからといって、彼の何もかもを知っているなんて気取るのは勝手な驕りだと僕は思う。

洗濯物の山の中でちょっと手が触れ合っただけで、内心穏やかでない自分は我ながらなんて女々しいのだろうと思う。悟られないように気持ちを落ち着けて、努めて冷静に目の前の洗濯物に集中しようとした。他愛ない会話を続けながら、僕の頭の中ではさっきの問がぐるぐる回っている。君が何か隠す以前に僕が隠し事をしていると言ったら、どんな顔をされるんだろう。

観月の入れる紅茶はうまいよなあと笑ういつも通りのその声が嬉しくて、僕は本当においしいものになるようじっくり時間をかける。一度台所にぶちまけた茶葉だろうが、中に安売りの低脂肪牛乳を入れようが、君と笑っておいしいと言えるよう最後の一滴まで気を遣ってカップに注ぐこの紅茶に、愛情以外のどんな感情を込めればいいのか僕には分からない。


















観月さんといえば紅茶ですが、聖ルドルフとかいうオシャレな学校に通ってる時点で実は赤澤部長もちょっとしたセレブで紅茶飲む習慣とかついてたらかっこよくね?と思った次第です

20120822・タイトル変更とちょっと修正







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -