※続きです









「やあみんな久しぶり、蓮二と赤也と丸井と仁王は昨日ぶり」

それほとんどの奴は昨日ぶりじゃねーか。幸村君はにやにや笑いながら俺たちを見て片手をあげた。そのあげ方がなんかムカつく。隣でジャッカルがぎょっとして、昨日来たのかよ、とか言ってる。
俺は聞いてない。イブは練習でクリスマス当日は面会時間全部使って幸村君に会うなんて、俺は聞いてないぞ。これじゃ、昨日俺がなんのために部活をサボったのか全然わからない。当の幸村君は満足そうにしてこれ以上何か言うつもりもなさそうで、でも仁王と赤也は、俺と同じ衝撃を受けてるみたいだ。柳だけが幸村と同じようなにやにや笑いをしている。

「昨日はごちそうさま」
「…」

昨日俺が真剣な顔して言ってしまった色々を思いだして逃げだしたくなりながら、昨日渡したケーキの空箱を受け取った。



***



幸村は俺のことをにやにやと上目遣いで見上げながら「昨日は引き止めて悪かったね」なんてあからさまな話題を振ってくる。くそ、帰りたい。いや帰りたくないけど帰りたい。なんかこう、本気で怒るに怒れない。

「真田にビンタされた?」
「部長命令って言ったけぇ、まあ…」
「昨日は特別だったのだ」

真田がまた気まずそうな雰囲気を全身から発しながら会話に殴り込んできた。今はお前は来なくていい。ただでさえ気まずかった俺がどうしようもなく落ち着かない。今年の居心地悪い記録はたった今更新された。こういう時に限って丸井は静かだし赤也はもっと静かだ。こんな雰囲気いつもだったら適当にごまかしてさっさと逃げだすのだが、今日はあまりにもアウェーな環境の中で調子が出せない。

「幸村君、一日もはやい快復を願っとります」
「仁王敬語きもい」

これ以上俺にどうしろと



***



仁王先輩は珍しく焦った顔で俺に目配せをしてきた。部長は昨日仁王先輩にもらったとかいうプレゼントの話をしてる。ちょっと顔が赤い仁王先輩は、話題を変えろと小さい声で俺に命令した。俺はブンブン首を横に振った。発言なんかしたら今の仁王先輩のポジションは確実に俺に回ってくる。昨日勘違いしてわざわざ半分嘘ついてまで幸村部長に会いに行ったことをおもしろおかしく話されたりしたらダッシュで逃げるしかないけど、先輩が全員集合してる前でそんなことできるわけない。だから今は誰の注目も集めないようにひっそりしてるんだ。

「…あ、そういえば昨日赤也も来てくれたよね」
「え、あ、いやっ、その」

俺を見る部長と仁王先輩の視線がいろんな意味で痛かった。



***



辛いときに辛いと弱音を吐きたくはないけれど、嬉しいときには嬉しいと言いたい。だから俺は普通に口に出して伝えたいんだけど、俺のまわりにはなぜか照れ屋さんばかり揃っていてなかなか言わせてもらえない。それなら、と思って俺は少しむきになってしまうけど、それに負けじと向こうも対抗してくるからいつも意地の張り合いで、何も伝えられないままだ。仲間だから心は繋がってる、とかそれらしいことを言えば気にしないで済むのだろうが、本音でちゃんと話さないと伝わらないことだってあるはずだ。
そう思って、せっかく今日久しぶりに俺の前に揃ったレギュラーに、ありがとうと一言言おうとしたら途端に口が動かなくなって耳がかっと熱くなった。

「どうした、具合が悪いのか」
「…ああ、いや、なんでもない」

このままクリスマスの雰囲気に流されて、何も言えずに今日も面会時間が終わってしまうんだろうなと思った。










リクエストありがとうございました!



20120106・ちょっと修正







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