「あれ柳さん、ガット切れてますよ」
「ああ、…困ったな」
「もう他にラケットないんスか」
「今日、代わりを取りに行く予定だったのだが」

つまり今柳さんのラケットは外の店まで行かないとないらしい。俺はひらめいた。

「あ、じゃあ俺のラケット使っててくださいよ!俺、柳さんのラケット受け取りに行ってきますから」
「いや赤也、それは」

反対される前に行けば怒られる理由は無い、はずだ。俺は慌てて外に飛びだした。

何も俺は部活をサボるためだけに出てきたわけじゃない。ていうか今は人一倍練習しなきゃいけないと思ってる。それでも強引に外へ出たのはもちろん、それなりに大事な理由があるからで。こんな微妙な答え方したら副部長にぶん殴られそうだな。
戻ったら道が渋滞してたとかそれらしいことを言って取り繕おう、なんて考えながら階段を上って部長のいる病棟のフロアまでたどり着いた。エレベーターを使わなかったのは一応、トレーニングの一環として。でも部屋の前でいきなり不安になった。やっぱり部長普通に怒るんじゃないかな、とか、検査とかで部長がいなかったら無駄足だな、とか。

中から聞き慣れた声が聞こえた。なんて言ったのかは分からなかったけど、たぶん丸井さんの声だ。俺は勢いよく扉を開いた。

「丸井さん?」
「…あ、かや」
「なんだ、赤也もサボり?」

部長は思ったより元気そうに俺に話しかけた。隣の丸井さんは複雑な表情で黙ったまま俺を見ている。

「いや、俺はその、柳さんの、ラケットの受け取りに」
「ここにラケットはないけど」
「…」

返事に困って視線をうろうろさせると丸井さんと目が合って、「あきらめろ」とだけ言われた。

「…お、俺は、別に今日だからってこともないスけど、幸村部長がずっと一人でいるなんてすげー寂しいと思ったから、それで、俺が、…」

俺がやけくそになって何言ってるのか自分でも分からなくなったとき、部長は「そんなに素直に言ってくれたのは赤也が初めてだよ」と言って笑った。







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