朝練より早い時間に起きられたのは奇跡に近かった。それでも別に嬉しくもなく、ただ泣きたいぐらいに寒かった。俺はカイロを両ポケットに一つずつ入れて、マフラーを一番暖かい巻き方にして家を出た。冷えた空気が俺を苦しめる。顔がカサカサになって割れそうで、空はどんより曇って夜みたいに暗くて、いっそ雪でもなんでも降ればいいと思った。部活、休みになるし。
暗い病院は正直怖かった。でも俺はクールな上に器用なので、人のいいナースさんをつかまえてなんとか幸村の病室にたどり着くことができた。達成感を感じながらふと、ここがどんなに暗くても寒くても、幸村は出て来れないんだと思った。

気配を極力消して幸村のベッドに近づいた。少しずつ朝焼けに染まっていく部屋の中で眠る幸村は置物みたいだった。俺はさっきまで暗いのが怖かったくせに、今度はどんどん明るくなっていくのがまた怖くて、用意しておいたプレゼントを置いてさっさと逃げようとした。
最後まで全力で息を殺して足音も殺して、ドアに手をかけようとした瞬間、

「仁王、メリークリスマス」
「…ばれたか」
「もう行く?」
「はよ部活行かんとおっかない副部長に怒られる」
「部長がいいって言ったって、言えよ」

俺はこの冬一番の居心地の悪さを感じつつ幸村の隣に座った。幸村は震える手で少しずつ包みを破いていく。俺が代わりに開けようかとも思ったが、あきらめる様子はなかった。そんな幸村の姿をなんて形容すればいいのか分からない。ただ、心臓をわしづかみにされたみたいに苦しい。もっと簡単な包装にすればよかった。

「仁王、」
「ん」
「やっぱり部活行ってこい」
「は」
「ほら早く!ダッシュ!」

言われるまま席を立って扉に手をかけると、後ろで小さく洟をすする音が聞こえた。泣くな。俺。







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