保健室の壁に貼ってある視力検査のCみたいなあれのすきまが全部つながっているように見えた。下の方のCなんか完全に点だ。そして見えなくなる。立ち位置が後ろすぎたのかと思って足元を確認したら目印の線より前に出てしまっていて、そういえばさっき無意識に一歩踏みだしたような気もする。身長体重はかりに行こうぜなんて小学生みたいなノリで保健室に誘ってきた丸井が恨めしかった。でも遅かれ早かれ自分の視力を自覚すべき時は来るはずだっただろうから、一応許してやる。それに八つ当たりはよくない。
それにしても一番上にでかでかと居座っているCですらただの○に見えたというのはなかなかにショックだった。あんなでかいの飾りだと思ってたのに。

丸井が体重計の上でちくしょうと唸るのを目の端でとらえながら放心してつったっていたら、あきれ顔で俺達を見ていた先生が仁王君はいいのと話しかけてきた。俺は黙って首を横に振って「あれ、一番上が見えないのって重症ですか」と慣れない敬語を久しぶりに使ってみた。

「見えないの?眼鏡は?」
「……」
「はやく眼鏡買ってきなさい」
「……えー」
「席は前の方なの?黒板見えないでしょ」

なぜか俺の席は前から二列目で教室のど真ん中というできれば遠慮したい特等席にあって、おまけに俺は授業をあまり真面目に受けるタイプではなかったからノートをとるのには苦労しなかった。そのせいで気付くのが遅くなったというのも確かにそうだが、それでも最近は見えにくいと一応思ってはいた。

「え、仁王お前目悪かったっけ」

隣に来た丸井が「上、左、右上…左、下?」とぶつぶつつぶやいてCの向きを下へ下へとたどっていった。今はこいつのぐりぐり動くでかくて丸い目がうらやましいと素直に思った。

「……なんか、俺、帰る」
「え、?」

ぽかんと口を開ける丸井を置いて近眼の俺は保健室を出た。







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