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今がなんの授業かとか、これが何に使われるのかとか、みんなが言ってることだとか、この教室ちょっと寒くない?とか。

自習でもない、ましてや休み時間でもないのに、班分けといういつもと違う席の配置になっただけで騒がしくなる教室に、思うところはいろいろある。ある、けど。

そういう全部が頭の中に留まらずに通過していくような。それでいて、時間が止まってしまったかのような妙な錯覚。

隣に座る御幸くんのせいだと思う。なんて、彼のせいにするのはお門違いなのはわかってる。

―――左手が。

震えてしまいそうになる指先は、今はここが心臓です、とでも言いたげにどきどきと脈打つから。鼓動が伝わってるんじゃないか、って。

頭はフル回転でそれに怯えてるのに、理解もしてない会話に笑顔で受け答えしちゃってる自分は器用なの?天才なの?

御幸くんは隣で笑ってた。いつものように。ああ、私だけバカみたい。なんて。

全神経が左手の、その小指の先に集まったようでいて、だけど残念ながら感度は鈍いとか。どきどき煩い心臓も相俟って吐き気がする。

班分けなんてしないでよ。隣になんて、座らないで。大好きなんだから、おかしくなりそうなんだよ。ねえ、知ってた?だからツラい。

―――左手が。

俺は気付いてませんって空気が痛いよ、苦しいよ。全く変わらず普段通りの笑い声に砕けそうだよ。ねえ、本当に気付いてないの?

―――左手が、指先が、

「あ〜〜疲れた!」なんてドコのダレ?は、取り敢えず。急に引き戻された現実世界は、今の私にはハードすぎた。

目一杯張ってた糸が切れたみたいにびくりと肩は揺れたし、不自然全開で左腕を引っ込めちゃったし、なのにそのくせ、思いっ切り御幸くんの方を向いちゃったとか。

挙動不審な私。でも存外、周りの目には止まらなかったようで揶揄もない。ただ。挙動不審はもう一人いた。

どうして?なんて聞くのは無粋?とか考える時点で何期待しちゃってんの、みたいな。私って痛い子?

えっ、でも、じゃあ、なんなの?まるで鏡を見てるみたいな、その正反対だけど同じ反応。

どきどきどきどき。さっきまで触れてた小指の先がまた、心臓です、と主張する。

―――左手が‥、

主張するの。あなたが大好きです、と。御幸くんも同じだと、期待してしまう私は愚かですか?