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can’t count the years on one hand
we’ve been together
I need the other one to hold you
make you feel better
“Still Into You” by Paramore

部活終わり、グラウンドの横を通ると見える、
君の一生懸命な姿が好きだった。
同じクラスだけど、
君は寡黙だからあまり話してくれなかったけど、
窓の外を見つめてるその横顔とか、
まっすぐと見つめて話してくれるその眼差しも好きだった。

それから数ヵ月後の、秋の朝。
冷たくて澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、
私は君に気持ちを伝えた。
少し考えて君は、YESの返事をくれたけど、二言目には、
「ただ君を幸せにできるかはわからない。ごめんね」と言った。

それは野球部が忙しいからだとか、
彼自身が器用な人間ではないからだということは、
言われなくても付き合う前から分かっている。

卒業後は、私は大学に、彼はプロに進んだけれど、
私たちの関係は細々と続いていた。

彼のここが決定的に良いとか、そういうわけじゃないし、
彼もまた私に対して同じように思っているはずだ。

だけど、どんなに良い男性に言い寄られても、
どんなに君が私よりも野球を優先しても、
君じゃないとダメなくらい君が好きなの。

約1ヶ月ぶりに会うことになった。
6年目の秋。私も彼も、23歳になったばかりだった。
珍しく3日も休みが取れたと、
電話の向こうで彼がほくほくしていたから、
私も会うのがすごく楽しみだった。

集合場所は、青道高校のグラウンド横のベンチ。
肌寒いくらいの風が、落ち葉を巻きこんで駆け抜ける。
グラウンドの切れ目に沈む夕日を見ながら、彼は言った。

「もう5年も一緒にいるね…」
「6年ね」
「6年か…」

こんなところでボケられても私、困る。

「暁とここまで続くと思わなかった」
「僕も」
「そりゃ、幸せにできるかどうかわからないって言われちゃあね…」
「でもね」

彼は車のトランクから何かを取り出した。花束だった。
その花束を渡しながら、彼はまっすぐと私の目を見て言った。

「今なら…ちゃんと言える。僕が、名前を幸せにする。」

えっ。どうした、暁さん。
そのつもりで今までプロやってきたとか、そんなの聞いてないです。
いつになく頼りがいのあるように見えるじゃないですか。

「名前、」
「はい」
「名前のことを幸せにできるの、僕だけだと思う。絶対。
だから、ずっと、一緒にいて。僕と…結婚してください。」

はい、と返事をした後、私の目の前に差し出された
彼の大きな手の中から現われたのは、
エメラルドのピアス。
…ピアス?

「指輪、サイズわかるわけないじゃん」
「そっかあ」

じゃあ今度一緒に指輪を買いに行こう。
そんな約束をして、私たちはゆっくりと唇を重ねた。