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今日は寒いからお鍋を作りたかったのだけどうどんもあるから鍋焼きうどんにしようと決めた。するとしばらくしてもうすぐ作り終わるかなあという頃に洋一が帰ってきた。

おかえり、ただいま。毎日交わすとっくに慣れた挨拶のはずなのにそれがとてつもなく嬉しくて少し頬が緩む。洋一はいつもリビングに入ってくるまでに洗面所で手を洗うから、冷蔵庫からお茶を取り出すためにキッチンにきたときふわりとせっけんの香りがした。


「どこかいくの?」


帰ってから部屋着に着替えてパーカーを羽織って財布を持っていたからそう訪ねると「コンビニ」と彼は小さく答えた。


「着いてっていい?」

「はやく長袖着ろよ」


そう言うと洋一は「はい、じゅーきゅーはーち」と数え始めて、わたしは慌ててカーディガンを取りにいく。カーディガンを着て玄関に行くと彼はすでに最近お気に入りである赤のスニーカーを履いていた。

マンションの下まで降りると車で行くのかと思いきや今日は自転車の気分らしい。自転車置き場をガサゴソして久しぶりに洋一は彼の自転車を引っ張りだしてきた。ニケツなんて学生時代以来だけど相変わらずお尻が痛い。


「ねー、よーいちー」

「あ?」

「星見にいこーよ」


空を見上げるとそこまで都会じゃないからか満月と星が綺麗に輝いている。洋一もそれに気づいたらしく感嘆の声をあげている。こんなに綺麗な夜空を見たのは本当に久しぶりでなんだかわくわくとかうきうきした気分になった。


「海行こうよ!海!」

「でもまずはコンビニな」


そう言ったと同時に自転車からコンビニの駐車場に降ろされる。「わたし星見とくね」と言うと「体冷やすんじゃねえぞ」と言いながら彼はコンビニの中に入って行った。中学校で習った秋の大三角形?四角形?あれ、なんだっけなあなんて考えては遠い記憶を呼び起こさせる。


「名前」

「ん?」


振り向くと洋一は片手にビニール袋をもっていてその中からパピコを取り出した。懐かしい。半分こにして手渡され、二人で駐車場にしゃがんでパピコを食べる。もう秋だからか少し肌寒くて洋一の言う通りにカーディガンを着ていてよかったと思う。


「いつも俺ばっかしてもらってばっかでなんか、その、わりぃ」

「わたし何もしてないよ?」

「ご飯作ったり洗濯してくれてたりしてんだろ」

「洋一だって洗濯物を中に入れて畳んでくれたりゴミ出ししてくれてるから、おあいこね」


ちらりと洋一のほうを見るとすでにパピコを食べ終わっていて立ち上がって空を見上げていた。しばらく見つめていると目があって洋一がわたしに手を差し出す。それに捕まって立ち上がると優しく抱きしめられた。


「今日の夕飯は鍋焼きうどんだよ」


そう言うとヒャハと笑うからわたしもなんだか嬉しくなってぎゅっと力の限り洋一を抱きしめた。家に帰って鍋焼きうどんを食べてテレビを見て寝て朝になったらまた起きて。そんな毎日が今日もそしてこれからも続きますように。そしてずっとこの温もりがいつも隣にありますようにと願いながら自転車の荷台に乗って彼の腰に掴まった。