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二番目の女になりたい。彼の中で二番目の存在になりたい。そう願うようになったのはいつからだろうか。最初はもちろん一番になりたかった。けれど彼の中で一番になることはできないのだろうと、いつしか二番目の女になりたいと願うようになっていた。それがきっと、私にとっての一番だから。


「ごめん、今度の日曜会えない。」


申し訳なさそうに謝る彼を見て、またか、と思った。いつものことだった。今度の日曜はひさしぶりにオフの予定だからたまにはデートしようと約束をしていたのだけれど、急な練習試合が入ったとのこと。


「大丈夫だよー!また今度、ね。」


また今度、それがいつになるかなんて想像もつかなかった。


「ありがとう。」


次は絶対なと、くしゃりと私の髪を撫でた私の彼氏である川上憲史は野球部で投手をしており、名門と言われるうちの野球部で一軍で立派に投げるくらいには実力の持ち主だ。その肩書きだけ聞けば気の強いエゴイストを想像しがちだけれど、実はとっても優しい。少し気が弱いところはあるけれど、私はそんな彼が大好きだ。


「あのさ、」

「ん。」

「名前って絶対文句言わないよな。」


何に対して、なんて、問う必要はなかった。


「ごめん。」

「なんで、」


今度は問いかけたくなった。なんで、どうして謝るの。憲史は悪くない。もちろん私も。誰も悪くなんてないのに。


「憲史にとって野球が一番大切なのは知ってるし、これくらいのこと覚悟して憲史と付き合ってる。だから謝らないでよ。謝られたら、」


余計辛くなるじゃない、そう言いかけてゴクリと飲み込んだ。本当は泣きたくなるくらい寂しい時だってある。そばにいてほしい時に、いてくれない。それを平気で笑って乗り越えられるほど、私は強くない。精一杯強がって、笑顔作って、健気に応援することしかできなかった。憲史が好きだから耐えられる、だけど憲史が好きだから、つらい。


「かっこ良く野球が終わるまで待っててなんて言えない。名前が辛いからもうやめようって、そう言うのなら、いつだって身を引く覚悟はできてる。」


小刻みに震えながら話す憲史の言葉を噛み締めて、それから私はふるふると首を横に振った。


「待つとか待たないとかそういうことじゃないと思うの。待ってるんじゃない。今、この瞬間を私がしたいようにしてる。」


うまく言えない。うまく言葉にできないけれど、きっと大切なことはひとつしかない。


「私は憲史が好きです。野球してる憲史が好き。もちろん、そうじゃない憲史も全部好き。その気持ちだけじゃ、ダメ?」


まっすぐ目を見て、真剣に問いかけたら、今にも泣き出しそうな、それでいて、嬉しそうな、なんとも言えない様子で憲史が言った。


「ダメなんて言うわけない。それだけで十分だよ。」


普通の恋人同士みたいにいつも一緒にとはいかないけれど、私達には私達のあり方がある。みんなと同じじゃなくたって、私達には私達の幸せがあるから。


「できるだけ時間作るよ。それでも寂しい思いさせちゃうこともあると思う。俺も名前が好き、その気持ちだけでよければ、」


私はゆっくり、そして大きく頷いた。


「これからも俺の彼女でいてください。」


今度は音がしそうなくらい何度も何度も頷いた。もしも野球より恋人を選ぶような人だったらきっと好きにならなかった。野球にひたむきな彼だから恋をした。




野球に恋する君が好き
だから私はにばんめでありたい