main | ナノ


襟足の長さは生意気さに比例する、と先人はどこかで言っていた。それを嫌というほど感じた。えぇ〜倉持くんと幼馴染なの〜いいなぁ〜と私もわざわざ甘ったるい声で自分がいかに洋一を愛しているか語りかけてくるクラスメイトの独演を聞き流しつつ窓の外を見遣ると、同じく野球部の人ー名前忘れたけどメガネーとキャッチボールしている。数十分の休み時間ですら野球に捧げている。
それそんなに面白いの?と聞いたらバカ、面白いからやってるんだろ。だと。
ねぇえ〜名前ちゃんウチの話聞いてた〜?と言ってくるクラスメイト。聞いていると思ってたのかとは言わない。聞いてた聞いてた。と適当に話を合わせて休み時間を切り抜ける。間延びしたチャイムがいつもよりもずっと長く感じる。
「ねぇ、名前ちゃん。ウチ、洋一くんに告白しようと思うんだけど」
はぁ、お好きになさって?と軽く言うつもりの言葉が喉にひりついて離れない。
「やっぱりねぇ、名前ちゃんも洋一くんのこと好きなんじゃん」
いやそんなことないあいつとはただの幼馴染、大丈夫、協力するよ。言葉が出てこない。
「いいんだよ無理しなくて。でももうこれからは、ライバルだね」
そう言って私の元を去っていくクラスメイトの巻き毛を目で追う余裕も無い。

好きだったのか、私は、洋一を。
私はただの洋一の相談役、都合のいい幼馴染、一番の理解者、長くなる襟足の観測者、どれでもない。ただ洋一に思いを寄せる一人の女だった。
それに気づけないまま、ただの幼馴染ポジションでこんなにも長いときを過ごしてしまった。もう女としては見られては無いだろう。幼馴染としてじゃなく、恋人として洋一の隣に立ちたかったという自分の声を聞こうともしなかった。その結果がこれ。
おとなになって振り返ったときに、笑い話にできるのかな。