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大丈夫かな。

そう思って、通学カバンの中を何度も覗き込む。覗いたカバンの中には、見慣れない小さなビンが入っている。中身は、マーマレードジャム。

昨日、台所からいいにおいがただよってきたので、のぞきに行くと、母が例のジャムをつくっていた。
「名前、このジャムできたら、そこにあるビンにいれてもらえる?」

「うん、いいよ。」

「お願いね。」






「おかーさーん、少しだけ残っちゃったよ?」

「じゃあそれ、小さいビンにいれといてくれるー?」

「了解!あ、この小さいビン、明日学校もっていって友達にあげてもいい?」

「いいよー?あ、もしかして彼氏??」

「そ、そんなんじゃないよっ!!」

「ふーん…」




今日の放課後、グラウンド寄ろうかな。

そう、思っていたのに。
いくじなしな私は渡すことができなかった。
もう暗くなってきたし、帰ろうかな、家に帰ってから自分で食べよう、と思ったのに、
神様は意地悪だ。

「おっ!苗字じゃねーか!どうした?こんな時間に!」

「倉持…?」
どうしよう、今渡そうかな、でも今しかないけど、

「…っ、倉持、さあ、ジャムとかって食べる?」

すると倉持は、あぁ〜…と顔をしかめて
「俺、甘いもんあんまり好きじゃねえんだよ…」

「え…「でも、」

「苗字がくれるなら別。」

そういって、いつの間にか私が握りしめていたビンをひょいっと取って、行ってしまった。

「あ…、」
伝えてみよう、かな。

今しか、ないから、


「倉持!!、待って、待ってよ倉持!!」

走りかけていた倉持が、振り向く。

振り向いてくれた。

伝えてみよう、この言葉で、この口で。



「好き、です。」

目を開けたら、私の大好きな人が目の前で笑っていた。

マーマレードがもたらしてくれた、魔法。