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「なあ、名前…。もし俺が、"俺だけのせかいをやる"っつったら…どう思う?」
「いらない、キモイ、病院行け」
―――本日は私の家にてお家デートってやつだ。
主力はオフらしいが、昨日が試合だったから体を休ませりゃいいものを…と言っても、こいつら野球バカ共は休みでも筋トレするバカなので、どの道関係ないのかもしれない。
で、本題に戻すが。
今は私の部屋でカチャカチャと格ゲープレイ中だ。
そんな中で倉持が訳のわからんキモチワルイ言葉を吐いたので、私がズバッと切ったわけだ。
「あ、の〜名前サン?おまえ俺の彼女だよな?俺のこと好いてくれてるよな!?」
「モチロン、私は洋一の彼女だし、洋一のことは大好きだよ?」
まだコンピュータと対戦中なのでコントローラーをカチャカチャさせながら答える。
ちゃんと告白されて、了解をだして、数ヶ月前にカレカノになった。それは紛れもない事実だ。
「じゃあ、なんでキモイって…」
…あ、拗ねてる。
「だって、洋一だけの世界とか何それ。ヒャッハー王国?こわいこわい」
洋一だけの世界など、四方八方からヒャッハー!ヒャハハハハ!と声が延々と聞こえてきそうだ…おぞましい。
それに…
「洋一オンリーじゃ、ねぇ?野球抜いたらカッコイイところなんて何も無いのにっ…!?」
言い終わるか言い終わらないかのうちに、洋一は私に技を決めてきた。
「んぐっ……ぎ、ぶっ!!」
「ヒャハハッ!軽く技かけてやっただけでこの有様かよ!」
とりあえずゼーハーしながら息を整える。よし…。
「ちょっと、洋一!残機減ったんだけど!ヒドい」
「ヒドいのはどっちだよ!」
バーカ、と小突かれた。
痛いよ、バカ…。
◇◆◇◆◇◆
「で、なんで急にあんなこと言い出したの?」
こうなった経緯をほんの少し興味がわいたので聞いてみる。
「あぁ…。ちょうど昨晩、純さんが読んでた少女漫画にそんなセリフがあってよ…そのセリフの後、その……」
洋一は頬を赤く染めながら、その先の言葉を言うのを躊躇っている。
が、こいつが何を言いたいかなんて大体の予想はつくわけで。
「そのセリフの後、そのカップルはイチャイチャした…ってこと?」
「おう!なんで知ってんだ!?読んだのか?」
「いや、読んだことはないけど。そういうのって…漫画でも小説でもパターンじゃん?」
へー、そうなのか。俺 読まないからな…などと洋一はブツブツ言っている。
(おまえが恋愛小説読んでたら引くわ!…というと、また関節かけられるので言わない。)
今の話から考えると、つまり洋一は…。
「私とイチャイチャしたかったの?」
ふと思いついた結論を口に出してみたが、どうやら当たりだったらしい。みるみるうちに洋一の顔が茹でだこになる。
「なんだ、言ってくれれば良かったのに…。そしたら私だってゲームしてなかったよ?」
…たぶん。
「いっつも俺、野球ばっかで。付き合ってから数ヶ月経つのに、デートすらちゃんと行けてねーし…悪ぃ」
「あはは!いいよ、そんなの。洋一が一生懸命 野球してるとこ、堂々と見れるだけでも嬉しいし」
気にするな!と軽くパンチしようとしたら、その腕を引っ張られ、思いきり洋一の胸にダイブ!!
それなりに勢いがあったにも関わらず、洋一はただギュッと抱き締めてきた。
「さんきゅ…」
小さく呟いて、苦しくないくらいに腕に力を込められた。
「(洋一、また筋肉ついたな…)」
ペタペタ。
おぉ、すごい!と腰周りを触る。
ペタペタ。
前に触ったときよりも背筋、増えたかな?
「…なぁ、おまえ何してんの?」
「いえ、少し筋肉の具合を」
首筋に手を伸ばそうとして、両腕を捕らえられた。よく見れば私の両腕は洋一の片手でしっかりと掴まれていて動かせない。恐るべし、muscle.
どうしよう…と掴まれている腕ばかり見ていると、洋一のもう片方の手で顎をクイと上へ向けさせられる。
「名前が、しばらく生意気な口きけないように…」
「俺の事しか考えられない、せかいをやるよ」
耳元でヒャハッという笑い声が聞こえたかと思えば、すぐに私の唇は彼の唇で塞がれた。