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「哲也、今日、一緒に帰ろう」

哲也の部活が終わるまで待っていて、哲也に声をかけると待ってるなら言ってくれれば良かったのにと言われたけど、そんなこと言ったら哲也は練習を早めに切り上げてしまいそうだから言えない。

「珍しいな、名前からは」

「なんかさ、今日は一緒に帰りたいなって思ってさ」

私が控えめに言うと、哲也はなんとなく察したようだ。

私と哲也は所謂幼馴染みというやつだ。
幼稚園から高校まで一緒で腐れ縁のようなものだろうか。

中学の時に青道高校の練習を見学しているとき、目を輝かしながらみていた哲也の横顔はい今でも覚えている。

そして今や青道高校のキャプテンで四番。なんて頼もしい存在になってしまったのだろう。

ずっと隣にいたのに、いつのまにか遠い人になってしまった気がする。

「今日は、星が綺麗だね」

おもむろに空を見上げながら言うと、哲也も空を見上げて二人で同じように星を眺めた。

「名前とはよく星を一緒にみたな」

「流星群みえるから一緒にみようって言って、外に出てても哲也は素振り始めちゃうからなんかロマンチックな感じしなかったよ」

当時のことを思い出して笑っていると、そうだったかと哲也は首をかしげた。

たぶん時間さえあれば素振りをするのが日課だったから覚えてないんだろうな。
それだけ哲也は努力を怠らなかったんだよね。

「一等星」

星ぼしのなかで一番輝いている星を見ながら哲也は言った。

「一等星は恒星の中で一番明るくみえる星で、シリウスやスピカを言うらしいな」

「あれ?よく知ってるね」

ちょっと驚いていると、哲也はこちらを向いた。

「なら、俺にとっての一等星は名前だな」

突然の発言に思わずえっと大声で叫んでしまった。

「俺のなかで名前は特別な存在だ。どんなときでも俺を明るく照らしてくれるような。」

何とも恥ずかしいようなこそばゆいそうな台詞を普通に言うのだから、さすがというところだろうか。

「名前がいてくれたから俺は頑張ってこれたんだ。本当に、感謝してる」

「っ…」

哲也が優しく笑いながら言うから、思わず泣きそうになった。
そんな風に思ってくれてるだなんて思わなかったから。

「あったり前でしょ!私にとっても哲也は大切な…大切な人だから」

思わず頬を伝いそうになった涙を隠そうと哲也に背を向けた。

そうだね、私にとっての一等星もきっと哲なんだと思う。誰よりも特別で大切な人。

「じゃあ、そんな私からのお願いをきいてもらえますか」

服の端で涙をぬぐって、哲の方へ振り返りとびっきりの笑顔を向けた。

「明日の決勝頑張って、勝ってね。哲也が甲子園に行く姿をみるのが、私の夢なの」

「……、ああ、俺達は勝つ。あのときの約束を守るよ」

「……ははっ、ちゃんと…覚えてくれてたんだ」

それは高校に入学してすぐの事だった。
私を甲子園に連れていってー、なんて有りがちな台詞を言ったの、哲也は忘れてなかったんだね。

「忘れる訳がない。その時に名前を甲子園に連れて行くのが、俺の夢になったからな」

「ありがとうっ、ありがとう。」

さっき我慢したのがまるで無駄だったように、もう涙が溢れてきた。
嬉しくて、ありがとうって気持ちが溢れてくる。

そんな私の頭を撫でながら哲が優しく抱きしめてくれた。
昔と変わらぬ優しさで、包まれた。

ああ、どうか私達の夢を叶えてください。

満天に輝く星のしたで、静かに祈った。