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がたんごとん。それは、一定のリズムを刻む心地よい音だ。


今日は久しぶりのオフ。オフでも自主練することが多いが、今日は違う。朝起きて、メールを確認。最寄り駅まで歩いて行く。駅が近くなってくると、携帯を取り出し、電話する。プルル、と機械音が鳴る。


「もしもし」

「ん、俺。もう駅着く。てか着いた」

「あたしもさっき着いた!」

「ん」


「「久しぶり」」

電話の向こうから聞こえる声と、目の前にいる彼女から発せられた声が重なる。


「ヒャハッ!お前、全然変わってねえな」

「洋一こそ、何も変わってないね」


今日は地元の千葉から名前が遊びにきた。連絡はいつも取っている。昨日だって電話で聞いた声の本人が目の前にいる。どこ行こっか、と彼女は笑顔で喋る。行くって言ってもここ周辺に何かあるわけではなく、2人並んで歩く。適当にファミレスに入って昼飯を食う。この前会った時より髪の毛も伸びている。今回はパーマもかけたようだ。

「髪」

「ん?」

「伸びたな」

「でしょ」

「パーマかけたんだな」

「たまにはね!ね、似合う?」

似合う?と聞いてきた彼女にドキリとした。似合ってる。可愛い。喉からでてきそうな言葉がつっかかって、声にならずにいた。

「全然」

「おい、そこは嘘でも似合うって言うでしょ」

「…」

「え、何この間」

洋一、どうしたの、彼女に覗き込まれたのが分かる。何でもねーよとごまかしておいた。ファミレスでは意外と時間を潰してしまった。店を出ると外は夕方ながら、暗くなり始めていた。また2人並んで歩き、近くの公園に入る。もう冬のにおいがする。寒くなったね、とこぼした彼女の耳は赤く染まっていた。

「きゃ」

「うわ、つめてー」

名前の両耳に俺の手を当てる。予想外に冷えている。

「あ、痛くなくなってきた、へへ」

洋一のてあったかい、そう言うと俺の手に自分の小さな手を重ねはにかむ彼女。深くにも綺麗と感じてしまった。
いつの間にか当たりは真っ暗で、名前ももう帰らなくてならない時間だ。駅まで送る。彼女は電車の切符を買い、俺は駅の入場券を買う。最初は電車も乗らないのに買うこの、入場券に違和感しか感じなかったが、今はそうでもない。そろそろ彼女の乗る電車が来る時間だ。

「今日は、ありがとう」

「ん、」

「次いつ会えるかなー」

「分かんねえ」

「えー」

「次はそっち、帰るから、待っとけよ」

「うん」

「それと、」

「それと?」

5番線、間もなく電車が到着します。ご注意下さい。駅のアナウンスが告げる。
少しして着いた電車に乗る彼女。

「髪、似合ってる」

こんな事、面と向かって言う事なんか、あまりないせいで、自然と顔に熱が集まるのが分かる。名前はびっくりした顔をしたあと、ありがとう、と言った。

「それじゃあね、」

「ん、また連絡する」


プシュと音と共に電車のドアは閉まり、ゆっくり走り始めた。





5番線ホームの彼女
遠く離れていても、この場所で繋がっているような気がした。