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恋人と一緒にいる時間、それは楽しくて幸せな時間、
で、あるはずなんですが…
「……」
最近の悩みを色濃く感じる時間でもある。
私の彼氏…東条秀明は何というか大人っぽいというか、余裕がある感じである。
例えば、私は好きと言うだけでもかなり緊張してしまうのにたいして、笑顔でありがとうって返してくれるだけで…。
何となく、こちらだけが好きなんじゃないかと思ってしまう。
そもそも、私なんかがイケメンである秀明と付き合えているだけでも十分であるのに、高望みしすぎているのもわかるけど…。
やっぱり、愛されていると感じたいと思ってしまう。
「名前?どうかしたの?」
百面相みたいで面白かったけどね、と笑顔でいう秀明にどこかときめいてしまうところもあるけれど、
「秀明さ、私のこと…その…す、好き…?」
我ながらなんと恥ずかしいことを聞いているのだろうかと自嘲したくなる。
「もちろん。好きだよ」
やっぱり、さらっと好きって言えてしまうんだね。
私とは違って。
何だろう、心の何処で我慢していたりした物とか、溢れてきた。
「っつも……」
「え?」
「いっつも、余裕な態度ばっかりでムカつく」
秀明のネクタイを引っ張って、私よりも背の高い秀明にキスをした。
もう半分勢い、自棄ともいえる行動。
少ししてから口を離すと、秀明の驚いた表情がみえて、後から少し罪悪感も芽生えたが、今はそれすら気にならないほど気が立っていた。
「秀明は、いつも余裕な感じで大人っぽくて。私ばっかりが好きな感じがして。もう…」
どうしたらいいかわからない。
いつも必死だった。どうやったら秀明に釣り合うような人になれるだろうか、何を話したら秀明は喜ぶだろうかと、いつも秀明の事を考えていた。
だから、秀明もちょっと困れば良いのに、なんてなんて子供じみた行動何だろうか。
「ごめん、」
そう呟いた秀明は、私の腕を引き、そのまま私を抱きしめた。
「ちょ、秀明っ」
「……、だめ、今顔見ないで」
顔を上げようとしたら、頭を抑えられてうごく事ができなかった。
でもこの状況はいたってやばい。何がやばいって、私の心臓が持ちそうにない。
ふわっと香る秀明の匂いが、さらに私の心臓を加速させる。
「あのさ、俺、余裕なんてないよ…」
「え、でも、」
「だって今、俺すごい緊張してるし」
そう言われて気づいたけど、秀明の心臓の鼓動も私と同じくはやかった。
「余裕があるわけじゃなくて、余裕のない姿を見せたくなかった。こんなかっこ悪い姿…」
手の力が緩んで、秀明の顔をみるといつもとは違う、頬のあたりが紅くなっていた。
すこし驚いたけど、何だか嬉しかった。
私だけじゃなかったんだって思ったから。
「秀明、顔あかっ」
「うるさい。言っとくけど名前も顔紅いから」
いじけたようにいう秀明がなんだか可愛くて、笑っていたら秀明の手がそっと私の頬を包んで、そのまま優しく引き寄せられた。
頬を包む指先、吐息の触れそうな距離に思わず息の止まりそうになった。
「今度は俺からしてもいい?このままじゃ、かっこ悪いままだから」
「だ、だめ!さっきのは勢いただし、心の準備ってのやつがまだ……っ」
一瞬のようにも永遠の様にも感じる時間だった。
呼吸も鼓動も止まってしまっているかの様な。
二度目のキスは幸せに溢れていた。