一度だけ真剣に言われたことがある。それは、付き合い始めの時のこと。私の家に遊びに来た秀一さんは、私に真剣な話があると言った。それは本当に真剣な話であり、そして少し寂しい話しで。でも彼と付き合っていくのには、それなりの覚悟が必要なんだとまだまだ子どもな私の脳内でも理解できた。

それは、俺と付き合っていることはなるべく隠せという話しだ。ある組織を追っている今だけはでなく、いつどこで俺やFBIに恨みを持っているやつがういに何をしてくるかわからないと言った話だった。普段仕事の話を彼は口にしないので、そういうことに対しての意識は薄くて。いまだにすごい職業の人と付き合っているという実感しかなかったから。

「はい。わかりました」

滅多にないことだが、何か不審なことがあったらすぐに言えとも言われた。けれども、危険に晒されたこともないし変わりのない日常を送っている。友達に彼氏のことを詳しく言えないのが寂しいだけで。

「そういえば秀一さん。付き合ってるのは、なるべく隠せって話、覚えてます?」
「まさか何かあったのか?」

最近ピリピリモードの秀一さんにこの話題はまずかったかな。目が怖いよ。目が。この間拳銃を持ってるところを見たばかりだから尚更怖い。いやいや、何もないですよと即座に答えればいつもの優しい目に戻った。プロ怖い。

「もし仮にですよ。仮ですからね。私が狙われたら秀一さんはどうするんですか? 別れてこの女は関係ないとか言うんですか?」
「別れもしないし、そんなことも言わない」

何か秘策でもあるんですか? と聞いたらそんなものもないとのこと。

「え? じゃあ、どうするんですか? 私、死ぬの?」
「死なせもしない。ただその相手を徹底的に痛めつけるだけだ」

そう言った秀一さんは不敵に笑みを浮かべる。この人を怒らせるのは止めた方がいいと悟った瞬間だった。



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