「赤井さん、夕飯何食べたいですか?」
赤井さんが久々に午前中で仕事が終わり、明日はお休みという何とも珍しい日。張り切ってご飯を作ろうと赤井さんに要望を聞くのだけれど、テレビに夢中で聞こえてないのだろうか。少し近くに行って、赤井さん? と呼んでみたけど少し振り返っただけ。どうしよう。何か怒らせてしまったのかな。
「何か怒ってます?」
そう聞くと、テレビのリモコンに手を伸ばしてテレビを切った。
「そうだな」
「えっと、ごめんなさい。心当たりが無さすぎて」
なにせ、ゆっくりと会うのは1ヵ月ぶり。その間も赤井さんは忙しくて連絡はとれず、今だってさっき赤井さんは来たばかりだし……。理由がわからずに困惑する私にこっちに来いと呼ばれ、隣に腰をかける。
「名前」
「名前?」
「そう名前だ」
唐突な答えに着いていけない。名前。名前。……わかった。
「名前で呼んで欲しいってことですか?」
「ご名答」
「でも、結構な年の差がありますしちょっと抵抗が……」
「でも、俺たち付き合ってるだろ?」
「そう、ですけど……」
呼んでみろと言いたげにこちらを見られても。しかし、呼ばない限りこの場は収まらなさそうな空気だ。
「秀一、さん」
意を決して、少し緊張しながら呼んでみた。ほとんど消え入りそうな声になってはしまったが。
「さんはいらない」
かなり勇気を出して呼んだのに、ダメ出しをくらってしまった。
「さんは付けさせてください。さすがに呼び捨ては……」
赤井さんと向き合うと、なぜかイタズラに微笑んでいる。どこか嫌な予感を感じていると腕をとられ、ソファに押し倒されてしまった。
「する時くらいは呼び捨てがいいな」
そう言って、唇を塞がれる。呼んだとしても離してくれそうにもない雰囲気に、私は飲みこまれるしかなかった。
title:サディスティックアップル