「では、転校生を紹介します。海外からきた上杉ういさんです」

黒板の前に立ち教室を見渡す。変哲もない普通の教室。一通り見回すと担任から小声で、自己紹介をしてくださいと言われる。私は視線を真っ直ぐに戻す。

「上杉ういです。ずっと海外の学校にいたので日本の学校はよくわからないことが多いと思うのでいろいろ教えてください。お願いします」

昨日考えた設定をそのまま自己紹介として使い、頭を下げると拍手が起こった。

「じゃあ、席は1番後ろの窓側ね」

言われた席を見るとぽつんと人が座っていない席がある。私は席につき、筆記用具とかを準備していると、始業のチャイムがなった。特に誰かに喋り掛けられもせず、1日が終わろうとしていた。ジョディさんは私より少し遅く入るらしい。海外からいきなり2人も人が来たら怪しまれるからとの理由だ。最後の授業も終わって担任から連絡があり、学校は終了した。勉強とかも特に問題は無さそうだから、学生生活に困ることはあまりないだろう。年齢も誰も気にしていなさそうだし。……誰かちょっと大人っぽくね? ってなってもよくない?男子校生ってこういうのに敏感な年頃なんじゃないのか。そんなことを考えながら帰る支度をすると、髪の長い女の子とショートカットの女の子が近づいてきて、声をかけてくれた。

「上杉さん。初めまして。毛利蘭っていいます」
「私は鈴木園子! よろしく! 上杉さん海外ってどこから来たの?」
「ニューヨークだけど」

ニューヨークかぁと鈴木さんが相槌をうってくれた。毛利さんはニューヨーク行った事あるよ! と返答してくれた。

「へぇ。行った事あるんだ! 楽しかった?」
「すごく楽しかったわ! でもちょっと嫌な事件もあったんだよね」

ちょっと暗い顔になってしまった毛利さんを明るくするように、鈴木さんがにやけ顏で毛利さんの顔を覗き込む。

「旦那と行ったのよねぇ。いいなぁ」
「だから旦那じゃないってば」

所謂周り公認の中と言うやつかな。高校生眩しい。羨ましい。

「旦那さんと海外旅行かぁ。いいねぇ」
「おっ! 上杉さんノリいいね!」
「ちょっと2人してからかわないでよ!」

私、いい感じに馴染んでるんでね?これはいけるわ。私と鈴木さんにからかわれて顔が真っ赤の毛利さんは、話題を変えたいのかそんなことよりと少し慌て気味に口を開いた。

「上杉さん、学校で何かわからないことあった? 今日ずっと1人でいたから心配だったの」
「そうそう! 折角同じクラスになったんだから何でも頼ってね!」
「2人ともありがとう」

私は笑ってそう返した。とてもいい子達だな。
学生生活はそれなりに楽しめそうだけど、とりあえず任務を果たさないとね。と言っても今日は教室とお手洗いを往復したくらいだし。赤井さんもジョディ先生が来てから本格的に動けばいいと言っていたから、暫くは周りと仲良くして校内を動き回れるようにしないと。

「上杉さんは、もう帰るの?」
「あっ、名前呼び捨てでいいよ!」
「私も園子でいいよ!」
「私も蘭でいいよ。これからよろしくね」
「うん。よろしく!」


「で、学校はどうだったんだ。未成年」
「楽しかったですよ。仲良くしてくれる人も出来ましたし。私のお酒勝手にビニール袋に入れて、持ち帰ろうとしないでください」

酒なんか飲んで良いわけあるかと合鍵を使って夜、様子を見に来た赤井さん。来るなら来るで、連絡の一本くらい寄越して欲しい。いきなり来て、私が着替え中とかお風呂中とかだったらどうするんだ。

「家なのにお酒禁止なんですか?」
「一応未成年だからな。それにしても店でよく買えたな」
「そりゃ、制服脱いだら未成年には見えないと思いますけど」
「店のやつ年齢確認サボったバイトだな」

その言葉にカチンと来た私は、ビニール袋を奪還しようとするもあっさりかわされそのビニール袋を頭の上に乗せられる。立ち上がった赤井さんはどこか楽しそうだ。

「とりあえず怪しそうなところは片っ端から調べますので、何かあったらこちらから連絡いれるのでいきなり家に来ないでください」
「一応気をつける」

一応ってなんなんだ。とにかく言いたいことだけ言って帰っていった赤井さん。何であんなに傲慢なのが私の上司なの。幾度も思っている疑問を考えていても仕方がないので、私はテーブルの上のお酒を……持ってかれたんだった……伸ばした手をどうする事も出来ず、私は床に倒れこんだ。明日もまた学校だ。



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