*夢主はもう1匹の猫設定

私は紫呉が好きだ。けれど紫呉は慊人が好きだ。本人から直接聞いたことはないけれども、好きな人のことだし誰よりも見ているから確信はある。そして慊人は神様だ。紫呉は神様に逆らえないけれど、紫呉は慊人が好きだからきっとそんな事は関係無いと思っていそうだ。慊人は、慊人は紫呉をどう思っているのだろう。そんな事とても恐ろしくて聞けないけれど。

慊人の気まぐれはいつだって、唐突だ。久々に私の体調が良いとはとりが報告したら外に出ていいなんて。外に出ていいと言われても、普段外なんて出ないから遊びにいけるところなんてひとつだけなのにな。

「紫呉の所には行くなとは言っていた」
「何で?」
「今、あの家はごちゃごちゃしてるからういが行くと、都合が悪いからだろうな」

そんな事、恋敵に言われると反発したくなるじゃないか。

「でも、はとりは連れて行ってくれるでしょ?」

少し間が空いた後、少し紫呉の家に電話してくると部屋を出て行った。なんだかんだ、はとりはいつも私のわがままを聞いてくれる優しい人だ。今度何かご馳走しよう。しばらくして、今は大丈夫だそうだから出かける支度をしろと言われ、甚兵衛からピンクのワンピースに着替えて最低限のものをショルダーバッグに詰めて、はとりの後をついていった。車中で最近、紫呉の家で起きている色々な事を聞いていると本田さんが羨ましくなった。

「私も紫呉のお世話したいなぁ」
「家事できないだろ」
「うるさいなぁ。ちょっとは出来るよ」

今日はたまたま本田さんと由希君と夾君が出かけている日らしい。タイミング良かったなぁなんて思っていると久々に見る家が見えてきた。車を停め終えると一緒に来ようとするはとり。

「ねぇねぇ、2人きりがいいんだけど」
「随分、積極的だな、じゃあ、俺はそこら辺で時間潰してるから終わったら携帯に連絡しろ」
「はーい」

返答もそこそこに坂を上った。コンコンと扉を叩くと眼鏡をかけた紫呉が出てきた。

「久しぶりだね。うい」
「久しぶり! 紫呉。お邪魔します」
「どうぞどうぞ」

居間に通されお茶とお茶菓子が出てくる。前来た時はこんなの出てこなかったのに、やっぱり本田さんって人の影響なのかななんて思ったり。

「眼鏡かけてるけど仕事中だった?」
「いや、本を読んでいただけだよ。今回も本借りていくかい?」
「うん」

いつも紫呉のオススメの本を借りてそれで本家で過ごすのが私の日常だ。仕事部屋にお邪魔するとやはり前より片付いている部屋。本も探しやすくなっている。

「本田さんが来てから随分綺麗になったね」
「彼女にはとても感謝してるよ」
「いいなぁ。本田さん」
「いい?」

つい口に出してしまった。紫呉が横から顔をのぞき込んでくる。嫉妬してるのなんて見られたくないのに。

「みんなで暮らすのって楽しそうだよね。だからいいなって」
「ういには程遠い世界だねぇ。うい?」

覗きこむ紫呉が驚くのも無理はないだろう。だって涙が止まってくれないんだもの。こんな、こんな形で思いを伝えるなんて嫌なのに、変わっているこの家がなんでか辛くて。今日は唐突なことが多いなといろんな考えがごちゃごちゃで。

「紫呉が、紫呉が好きなの。だから近くにいる本田さんがいいなって」

あ、とても面倒くさい女だ。どこかの雑誌で見たことがある。けれど思いも涙も止まらなくて、力任せに叫ぶように止まらない。

「けど、けど。紫呉は慊人が好きなんでしょ?」
「よくわかりましたねぇ」

私のと正反対の間延びした声に、余裕な紫呉に、あぁ、失恋したんだって頭に伸びてくる手を振り払って、家を飛び出した。はとりに終わったって連絡しないと。運悪く徐々に強くなってく雨でも隠せないくらい私は泣いていたのかな。真向いからやってくるはとりが慌てて傘を持って駆けてくるのが見えた。私はこれから何を希望にして生きればいいのでしょう。そんな事、神様には聞けないのです。

title:サディスティックアップル



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