「うい。そろそろ家探しに行こうか?」
「へ? あっ、そうですね。高校まででしたもんね」
夜、降谷さんとテレビを見ていた時だった。ああ、そっか。出て行かなくちゃ行けないんだ。……寂しいな。降谷さんが好きなんです。一緒にいたいです。どれも降谷さんからしたら保護してやった子供が年上に憧れてしまっただけにしか聞こえない言葉達。私が降谷さんに釣り合うような魅力ある人物だったら、これからも一緒にいれたのかななんてどうしようもない考えが頭に浮かぶ。
「家探しなら……家探しなら私、自分で見てきますよ。確か契約手続きは、公安の方の判があれば大丈夫なんですよね」
不自然に空元気し過ぎただろうか。降谷さんは不思議そうな顔をしたけれどああ、そうだよと答えた。
「どんな家がいいですかね。陽が当たる部屋がいいですかね。一人暮らしだからワンルームで。なんか降谷さんの家って広いんでワンルームになると窮屈に感じそうですね」
泣きそうになるのを誤魔化すために、つい言葉が多くなってしまった。降谷さんは黙って私の方を見ている。あと数日で降谷さんに保護されるという形も無くなり赤の他人になってしまう。こんなに近くで会う事ももうないのだ。これからの事が頭を巡り鼻の奥がツンとした。泣きそうになっているのに気づかれたくなくて、部屋のパソコンで調べてきますと立ち上がろうとした。
立ち上がろうとしたのに、私は降谷さんに腕を引っ張られバランスを崩してしまい、そのまま降谷さんに抱きとめられてしまった。降谷さん? と驚くも背中に手が回ってきてさらに強く抱きしめられてしまう。何でこんなことするの。ますます、好きになってしまう。逃れようと抵抗するものの、男の人の力に敵うはずもなく抵抗は無駄に終わる。降谷さんと呼ぶといつもと少し違う声色で何だい? と返ってきた。
「離してください」
「離したら部屋に行っちゃうじゃないか。泣いてる女を1人に出来ない」
「泣いてません」
声が震えてると言われて、自分が泣いてることに気づいた。最初にここへ来た時と同じ優しい手つきで頭を撫でられる。
「何で泣いてるんだ?」
「……ずっとここに住んでいたので、急に寂しくなったんです」
好きなんて到底言えるはずもなかった。早く部屋に行きたい。それでも降谷さんは頭を撫でる手を止めてくれなかった。
「確かに俺も寂しいな。ういがいなくなるのは」
「何でですか。やっと彼女とか連れ込めるじゃないですか。仕事で家に子供が家にいるって少なからずストレスになると思うんです」
作った料理を美味しいと食べてくれる降谷さんが大好きで、家事全般を頑張った。少しでもストレスにならないようにと。降谷さんが喜んでくれているのを糧にしながら。頭を撫でる手が止まった。やっと離してくれると思ったら頭を後ろから右手で固定され強制的に顔を合わせる体制にされてしまった。降谷さんと視線を合わせないように、視線を下に下げるのが精一杯だ。
「確かに俺は最初、仕事だと思ってういを受け入れた。それがいつの間にか楽しくなってきてしまって」
視線を下げているから表情は分からないが、口元が楽しげにしているのが少し見えた。
「いつの間にかういとずっと一緒にいたいと思ってたんだ」
「え?」
その言葉に視線を合わせてしまう。
「俺が何を言いたいかわかるかい?」
「それは……家政婦にしたいとか? 妹みたいだとかそういうことですか?」
まだわからないのかと呆れ顔になってしまった降谷さん。わからなさすぎる。それは、一緒にいていいということなんだろうか。それはあまりにも私に都合が良すぎる解釈だ。
「俺は好きな女にここにいてくれと言ってるんだ」
「好きな……女……。好きな女?」
「ういは俺のこと嫌いなのか?」
「そんなこと、私は降谷さんが好きで!」
勢いで思いを告げてしまった。降谷さんはなら、ここにいても構わないじゃないかと手が離れていく。えっ、どういうこと。目の前の降谷さんは、優しく微笑みながら私を見ている。
「……ここにいていいんですか?」
「まだまだ子どもだな。まだ事態について来れてないようだね」
そう意地悪く笑いながら言う降谷さん。……そうか。私と降谷さん両思いなんだ。
「うい、俺の彼女になってくれないか? 好きなんだういのことが。家なんか探さなくていい。ここにいてくれ」
夢なのかな。これは。頬をつねってみると痛かった。夢じゃない。そんな私の行動に声を出して笑う降谷さん。ひとしきり笑った後で、返事は? と聞かれる。返答はもちろん決まっている。
「私も降谷さんが好きです。彼女にしてください」
そう言った瞬間、降谷さんの顔が近づいてきて降谷さんと私の唇が重なった。初めてのキスは恥ずかしくって嬉しかった。
「今まで散々我慢したから覚悟してろよ」
そう言われた私の顔はきっと真っ赤に染まっていただろう。