赤井さんが出て行って、数時間。どのくらい放心状態でいたのだろう。気付くと日付が変わりそうな時間だった。少しでも横になろうと寝室に向かおうとした時だった。テーブルに置いていた携帯が着信を告げた。画面を確認するとジンからの初めての電話。嫌な予感しかしなくて、電話を取る気になれない。けれど、ジンからの初めての電話を拒否する気にもなれなかった。
「もしもし、ジン? だよね」
「ああ」
「初めてだね、電話くれるの」
「そうだな」
「どうしたの? 急に私の声でも聞きたくなった?」
「ああ」
冗談を言ったからそうじゃないとか返してくれればいいのに。
「うい」
「ん?」
「愛してる」
次に聞こえたのは、銃声音。
「ジン?」
撃たれたの? 誰に? 赤井さん? 降谷さん? 死んだ……の……?
「ジン! ジン! どうしたの? ジン! お願い! 返事して!」
繋がったままの電話に叫び続ける私。いつまでそうしていたのだろう。気づいたら降谷さんが家にいて、後ろから抱きしめられ携帯を切られた。頭をひとなでして離れた降谷さんは声色を変えてこう言った。
「組織に監禁されていましたね? 今から公安があなたを保護します」
あとから来た女の人に支えられ、車の後部座席に乗せられた。俺が送っていくと降谷さんが人払いをしてくれて、静かに車は発進した。住み慣れた街からどんどん車が離れていくのをぼんやりと見つめる。
「ねぇ、ジンを撃ったのは赤井さん? それとも降谷さん?」
「自決だよ」
「じけつ、……そうだよね。ジンが誰かに殺されるなんて有り得ないもんね」
詳しく状況を聞くと、FBIがジンの車を囲うとどこかに電話をかけ始め、少ししてから拳銃を取り出し自分で頭を撃ったと。……涙が止まらない。覚悟はしていたのに、結局何もわかっていなかった。こんな事になるなら、無理にでも組織に関わればよかった。
「とりあえず事情聴取はするから絶対に彼女だったなんて言わないように」
私はこれから一生誰にもこの思いを知られてはいけないのだ。ねぇ、ジン。私も愛してたよ。
--------生きていて欲しい
そうだね。私は生きていていくよ。そして、これからもジンの事が1番大好きだからね。さようなら、私の愛しい人。