組織の研究室でずっと籠って研究をしていると朝なのかも夜なのかもわからない。ふとお腹が空いたと感じて、ふらっと外に出たらどうやら今は昼だったようだ。頭上に上りかけの太陽に、公園でご飯を食べているサラリーマン。どこからか聞こえてくる小学校の子どもの遊ぶ声。ベビーカーを押している母親や仲良さげに歩くカップル。柄にもなくその平穏な光景にいいなぁなんて思ってしまった。適当に近くのコンビニに入り、アイスコーヒーとサンドイッチを購入してまたあの暗い研究室に戻るのだ。

また、どのくらい集中していたのだろう。データ収集と入力を終え、携帯を確認すると23時。ロック画面には珍しく家にいるとジンからメッセージが入っていた。向こうも仕事が終わったのだろうか。仕事と言ってもどう足掻いても世間に顔向けできない仕事の事をさすのだけれど。昼間に見たカップルなんかは、お疲れ様なんてハートマークが乱舞しそうなやりとりのメッセージでもするのだろうか。そんな事を思いながら、ハート乱舞なんて程遠い了解とだけ返して、昼間のコンビニに寄り夜食を買い家路に着いた。

久々に明かりのついている家に帰って来たなと扉を開け、鍵を靴箱の上の小物入れにしまう。リビングに行くとラフな格好のジンがウイスキーを飲んでいた。

「ただいま」
「ああ」

彼はおかえりなんて言ってくれない。今日はどうも所謂普通の対応が羨ましく思えてしまう日なのかもしれない。

「おかえりって返してほしいな」

……無反応。わかってはいたけど。カバンを置き、私も飲もうと冷蔵庫を開けてオレンジジュースを取り出す。ジンと割ってオレンジブロッサムの出来上がり。机の上にはナッツが置かれているから、それを一緒に食べよう。買ってきた夜食は明日にまわそう。隣に座って、なんとなくグラスを合わせて勝手に乾杯をする。

「今日は遅かったな」
「ジンがいつも遅すぎなんだよ。久々だね、こうやってゆっくりするの」
「そうだな」

そういえばねと今日見た昼間の光景を羨ましいと話すと意外な返答が返って来た。

「なら、今度してみるか?」

普段ブラックジョークは言うくせに、こういったジョークを言うジンは初めてみた気がする。その様子が少しおかしくて笑ってしまうと、軽く肘で脇腹を小突かれてしまった。

「ごめん。ごめん。まさかそんな事いうなんて」

うるさいと言う顔をされてしまって、私はお酒を飲んで誤魔化した。私たちには私たちの幸せがある。彼氏が殺しをしていようと私が毒薬を作っていようと。普通の幸せは羨ましいくらいで充分だ。

「ねぇ、ジン。じゃあ、今度おかえりって返してね」

どこか不満そうな顔をしながらも短くああと返ってきた声が聞こえた。

title:サディスティックアップル



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