午後3時。最後のコマが休講になり、特に用事も無いので、真っ直ぐ家に帰るとライがリビングにいた。おかえりとパソコンに目を向けたまま言われ、なにやら忙しそうに、パソコンのキーを打っている。荷物を自室に置き、ライの隣に座ると見えてしまうパソコン画面。

「こんなとこで堂々と潜入報告ですか」
「割と落ち着くんでね」

どういう神経をしているのだ......。まぁ、こんな仕事をしていたらこんな神経にもなるだろうと自己解決。日々神経をすり減らしている疲れた頭には甘いものが必要だ。

「ライは甘いもの、好きですか?」
「あまり得意ではないな」

甘さ控えめのクッキーが余っていたはず。それとコーヒーを淹れよう。私のコーヒーにはミルク。ライはブラックでいいかな。

「クッキーとコーヒーです。よかったらどうぞ」
「ありがとう」

一応ミルクと砂糖も用意していたけど手はつけていない。クッキーは食べてくれた。報告が一段落したのか2杯目のコーヒーを飲みながら、ライが私に聞いてきた。

「ういは俺の顔を知っていたな。本当は本名も知っているんじゃないか?」
「そこまで思い出せないですよ。母が名前を教えてくれたのは、覚えているんですけどさっぱり思い出せません」

私の顔をじっと見ていたライはならいいという顔でパソコンに視線を戻した。それから、お互い無言になってしまった。携帯とかをいじってみるけど、何となく沈黙に耐えられなくて、組織で使ってる偽名なら聞いてもいいかなと軽い気持ちで聞いてみることにした。

「ライは組織になんていう名前を名乗ってるんですか?」
「諸星大。本名は......」
「本名はいいですよ」

私は慌ててライの言葉を遮ったのに、本名は赤井秀一だとあっさり言われてしまった。教えてしまっていいのだろうか。

「別にういに知られてマイナスになることもないだろう。ジンに俺の正体を言わないのが何よりの証拠だ」

私はきっと面を食らったような顔をしていると思う。そうですねと言うのがなぜか精一杯でライが何を考えているのかさっぱりわからない。

「この間私に日本の警察が保護するかもしれないって言ってましたよね」

ああ、とパソコンから視線を外さずにそう答えるライ。近いうちにもしかしたらそうなるかもしれないですと言うと不敵にライが笑った。

「俺の予想通りだな」

私には何が起きているのかはわからない。けれど、ジンと引き離される未来は、そう遠くないのかもしれないという思いが、一瞬頭をよぎった。



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