ジーッとこちらを見ているのは家で飼っている黒猫のメスで、名前はリン。家で飼っているが、俺に全然懐かずういが飼っているようなものだ。テレビを見ていても料理をしていてもジッとこちらを見ている。言われたとおり皿には餌を入れたし特に不満はないはずだ。リンの視線になんとなく耐えられなくなった俺はリンと視線を合わせる。
「今日お前の飼い主は帰ってこねーの。世話はしてやるからこっち見るな」
ういは友達と一泊二日の旅行に出かけた。リンちゃんのお世話よろしくーと簡単にリンのことを書いた注意事項だけおいて出て行ってしまった。寄ってこないとはわかっていてもおもちゃを持ち出してふてぶてしくこちらを見ているにリンに向けて振ってみる。成猫になっておもちゃではあまり遊ばなくなっているらしいが目でおもちゃの動きを追っている。飛びついてはこないが。結局その場から動こうとしないリンに俺はおもちゃを片付けてタバコに火をつけた。
それからリンは俺に寄り付くこともなく夜になった。風呂から上がるとリンは玄関にいた。ういの帰りを待っているのだろうか。
「リン」
名前を呼んでも反応はない。ジッと玄関を見ている。
「リン。俺、そろそろ寝るぞ」
俺達が寝るときリンはベッドの側に置いてあるクッションの上で寝ている。なんだかこのまま放置していると、玄関にずっといそうで俺が気になって眠れない。リンに近寄って恐る恐る手を伸ばすと撫でさせてもらえた。
「俺もういが居なくて、寂しいから気持ちはわかるが、そこにお前がいると気になって眠れそうにねぇんだよ」
誰もいなくて出てしまう本音。リンが諦めたように鳴いて寝室へと入っていく。俺の言葉が分かるわけがないのに、なぜかわかられたような気がして、少し気恥ずかしくなった。