今は一応、見慣れた光景だけど最初はとにかくひいた。あれは、初めて私が家に行って、料理を作った時のことだった。トシさんは、嬉しそうな顔で椅子に座ったものの、食卓の上を数秒見つめた後に

「無い」

と一言呟き冷蔵庫に向かった。初めて好きな人に料理を作って、緊張していたところにこの言葉。無いの一言は意味がわからなかったが、わからないなりにどこかショックを受けたのを覚えている。好きな物が無かったのかな。事前に好みを聞いておけば、よかったな。普通はそうするよね、などとごちゃごちゃと考えている間に、戻ってきたトシさんの手にはマヨネーズ。……作ったのは炒飯なんだけどな。次の瞬間トシさんはマヨネーズを両手で持ち、炒飯の上からまるまるマヨネーズ一本かけだしたのだ。緊張していた自分が何だか馬鹿らしくなってしまう。

「……トシさん?」
「何だ?」
「マヨネーズ」
「ああ、マヨネーズだな」
「マヨラーなの?」
「ああ」

何だか怒る気にもなれなくて、そのまま流したのだけれど、やっぱり健康に害が出る様な量だったので今はカロリーハーフに変えてもらっている。

「トシさん。マヨ好きは構わないのでせめてカロリーハーフにしましょう。じゃないと別れます。っていうかこのままだとトシさん死にますよ」

トシさんが言うにはこの時の私はなんとも言えない気迫だったらしい。



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