最近、手詰まりだ。追えば追うほど家族が遠のいていく感じする。そういう時に限って仕事も上手くいかないもので。イライラしながら、銀九にある喫茶店へと向かう。

昔から存在する喫茶店LemonQuartz。俺がこの町に来た時から仲良くしてくれていた上杉ういが継いだ店。今ではカフェ&バーで酒も提供している。ういは両親を早くに事故で無くし、母方の実家ここLemonQuartzで育ったのだ。俺も学生の頃はういとこの喫茶店の片隅で勉強をさせてもらっていて、今でもこうして気が落ち着かない時に利用をしている。

薄黄色の外観に扉にはCLOSEの札が掛かっているがお構い無しに扉を開けると、カウンターの向こう側ではういが明日の仕込みを行っていたようだ。顔を上げたういは「鍵かけるの忘れてた」と不貞腐れている。カウンターに腰をかけるが、ういは見て見ぬふりをしてくる。だが、そんなのは気にしない。

「いつもので」
「お客様、本日は閉店ですのでよろしければ出勤前のモーニングにお越しいただければ幸いですー」

相変わらず口を尖らせて、パンを切る手を止めないうい。俺を気にかけない仕草はいつもの事。カバンから仕事の資料を取り出して目を通しているとパンを切り終えたういが鍋に火をかけ出す。

「お酒? 日本茶?」
「酒で」

「かしこまりましたー」と間延びした返事を耳にまた資料に目を戻す。少しして周りの空気が温まった頃に出てくる手作りシチューとハイボール。そして流れるようにういは明日の仕込みを続ける。

「いただきます」
「召し上がれー」

少しこの空気にも飽きてきたのかういが「今日なかなかにお客様来てさ、仕込みの時間とれなかったんだよね」と今日の出来事を話し始める。

「だよな。大体この時間にはもう終わってるはずだから」
「顕も残業?」
「そんなとこ」
「お疲れ様でした。と、仕込み終了」

そう言ったういは冷蔵庫から牛乳を取り出して、電子レンジで温め始めた。ういがホットミルクを飲み終わる頃には俺も食事を終えていて、自分達が出した食器の後片付けをして二人で店を出る。店に鍵をかけるういの手元を何となしに見ていると振り返ったういと目が合う。

「どうした? 帰らないの?」
「…………今日、ダメか?」
「嫌よ、明日早いし」
「うい」

疲れているから癒しが欲しい。だなんて絶対に口には出さないけど、それでも察してくれるういに甘えてしまう。

「できないけど、添い寝サービスくらいならしてあげても良かろう」

得意気にフフンと鼻を鳴らしながら、店の二階の自宅への階段を登っていく後姿を追った。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -