今日はヨコハマから少し離れた場所での仕事で舎弟の運転する車に乗りっぱなしで。別のとこでも仕事な為、ほとんど移動ばかりだ。ボツボツと車窓を殴りつけるように降る大粒の雨は朝から変わらない。フロントガラスに視線を移せば、間に合っていないワイパーが高速に動いている。晴れていればドライブに最適だったのにと、空を見上げた。

"もうすぐ七夕ですね"

そう言ってた彼女の声が頭に浮かぶ。そんな今日が七夕なのだが、この雨じゃ天体観測どころではない。眉尻を下げて今年はしょうがないですねと脳内で喋りかけてきた。

「そうだな」

小さく呟いた俺の声も雨の音にかき消される。舎弟も俺が声を発した事にさえ気づいていないようだった。


仕事が終わったのは夜でその頃には小雨に変わっていた。ふと、頭に公園が過ぎる。行ったら会えるだろうか。外は雨だというのに、そんな馬鹿な考え。家の玄関先まで帰ってきたが、すぐに踵を返して外へともう一度出る。水溜まりがあちこちに出来ている道を歩いていけば、見えてくる公園。そこに白地に細い赤線の傘。

「あっ、」
「いた」

振り返った彼女は優しく微笑んで、こちらへと歩いてきた。

「……雨の中何やってんだ?」

きっと彼女も俺に対して同じ疑問を抱いているのか「そちらこそ」と首を傾げた。

「俺は……散歩だ」
「私もです」
「七夕だってのに残念だったな」
「そ、ですね」

突然、俺に背を向け傘の向こうに隠れてしまった彼女。一瞬の内に見えたのは、泣き顔の様な気がして。

「大丈夫か?」
「すみません。大丈夫です」

強がる声の後に小刻みに震えている傘。顔を見られたくないだろうなとは思う。心の内ですまないと謝って、彼女の対面へと回った。

「ごめん、なさい」

何があったのだろう。聞きたいけれども彼女の好きな物が天体観測と言う情報しか知らない俺にそれを問いただせる権利はどこにもなかった。ただただ、心配で顔を覗き込んでしまった事に申し訳ない気持ちが押し寄せてくる。

「謝んな。何があったか知らないが泣きたい時は泣いといた方がいい」

雨音に混じって聞こえてきた嗚咽。空を見上げると厚い灰色の雲が一面を覆っていて、まるで彼女の気持ちを手助けする様にシトシトと雨は降り続けていた。



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