人通りの多い駅前。仕事帰りの会社員や部活終わりで帰ってく学生。帰宅ラッシュでいろんな人が入り乱れるこの時間。それだけ人がごった返しているのに一箇所、誰もが避けてくスペースが。私も何となく人波に乗って遠目からそのスペースへと目を向けた。そこには巨大な黒い塊に見える人が蹲っている。酔っ払いかとも思ったが散々喧嘩をしたのかよく見ると全身ボロボロだ。そんな人間に関わりたくないのが当たり前だろう。声を潜めて何かを言っている人も少なくはない。

……駅員さんくらいには、報告をしておくかと人波に逆らおうとした時、その黒い塊の顔を見てしまった。アレは禪院甚爾だ。なぜ、こんな所で蹲っているのかはわからないが誰かわかってしまった以上私が回収してしまった方が早い気がしてきた。人をかき分けて禪院さんに近づく。後ろから刺さる視線は気になるが、声をかけないといけないような気がしてしまったのだから仕方ない。

「大丈夫ですか?」

私の声に反応した禪院さんは顔を上げた。

「……病院、は行けないですよね」
「何だ、お前」
「禪院さんに声をかけた時点で私もそちらの界隈の人間だと思ってもらえばいいです。そんな人間に助けられるのは嫌ですか?」

下を向いたまま無言になってしまった禪院さん。とりあえずこれ以上ここに居ても仕方ない。私の家はここから歩いて五分もかからないのだが、禪院さんは歩けるだろうか。

「私の家来ますか? すぐそこなので。立てます?」
「俺を知ってて家に上げる方がどうかしてるな」
「こんなとこで堂々と倒れてる方がどうかしてます。一人暮らしなので諸々気にしないでください。それと、連絡いれないのは約束します」

私の顔を見てから、視線を外した禪院さんはよろめきながらも壁を支えにして立ち上がる。もの凄い視線の量を浴びながら私たちは駅を後にした。


家に着いてとりあえずお風呂に入ってもらう事にした。着替えは数ヶ月前に別れた彼氏の物がまだ置いてあったので、一先ずそのスウェットを着てもらおう。体の大きい禪院さんでも多分着れるはずだ。

シャワーを浴び終えた禪院さんは、まだ少しだるそうなもののさっきよりは血色が良い気もする。リビングに入って来て、私が座っている横に座った。私は用意していた救急箱で出来る限りの手当をしていく。傷の量は多いが思っていたより、浅くて助かった。倒れ込んでいたのは気力でも使い果たしていたのだろう。黙々と手当を受けていた禪院さんは突然口を開いた。

「この服、彼氏のか?」
「元ですが。サイズ合って良かったです。……よし、これで手当は大丈夫だと思います」
「ありがとうな」
「いえいえ、動けるくらい回復してくれて良かったです。今日は泊まってもらって大丈夫ですよ。布団もありますし」

救急箱を片付けたくて、立ち上がると禪院さんは私の腕を引っ張ってきて、私はまたソファに座り込んでしまった。

「それはありがたいんだが。……お前は誰だ?」
「…………呪術師界隈に居たのは確かですけど、今はただの一般人です」
「名前は?」
「ういです」
「苗字は?」

禪院さんは呪術師では無く、呪詛師。しかも、普通の呪詛師では無く、呪術師殺しの呪詛師なのは知っている。多少、警戒されるのは仕方ないのだけれど、苗字は言い難く禪院さんから視線を逸らしてしまった。

「言わなくてもいいけど、苗字なんかそこらを漁ればすぐわかるぜ」

禪院さんの言う通りか。私は小さな声で「五条」と答えた。多少なりとも驚いたのか少し目を見開いた禪院さんは軽く鼻で笑い「そうか」と呟く。私が縦に首を振ると禪院さんは無造作に私の頭を撫でてきた。

「そういう事なので。お互い妙な詮索は止めましょう」
「……だな」

つまらなさそうに足を組んでソファへと沈んだ禪院さんを横目に私は立ち上がり、救急箱をしまう。客用の布団を敷いてから私もお風呂に入ってしまおう。……夕飯はどうしようか。冷蔵庫の中を思い出しながら、ソファに戻ると禪院さんは横になっていて、すでに寝始めてしまっている。あんな所で倒れてたくらいだから、疲れてるのは当たり前か。ソファに置いていたブランケットをかけて、私もお風呂場へと向かった。



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