いつも通り悟空が腹減ったとうるさいので、夕飯へと繰り出してきた。すぐに入れそうな店に入り、各々好きな物を注文するべくメニューを覗いているのだが。
「まだ迷ってんのか?」
その三蔵の言葉に頷くのは、三蔵の隣に座る声が出せないういちゃんだ。ういちゃんは二つの料理を指さした後、三蔵の顔を覗き込んで首を傾げる。……可愛いな。
それを受けて三蔵が「俺がこれを頼むから少し食べればいい」と提案をするとういちゃんは嬉しそうに頷いた。
こんなやり取りが二人の中では当たり前になってきてるのだけど、その甘ったるい光景はいつ見ても慣れない。突っ込む気力も起きなくて、俺も自分が食べたいメニューを決めた。
注文をしてしばらくすると料理が運ばれてくる。三蔵とういちゃんの頼んだものも運ばれてくる。取り皿は人数分、テーブルに用意してくれているのに。三蔵は自分の前にある料理を一口より少し多めに箸で切り分けて、隣にいるういちゃんにほらとでも言うように箸を持っていく。ういちゃんはニコリと笑ってその箸の先へと口を開ける。所謂、あーん状態。それとなく三蔵の顔を盗み見るも当人は何も思っていないのか真顔で自分の食事を続けている。そのまま視線を八戒に移すと八戒は言いたい事はわかりますよとでも言うように笑いながら俺を見て頷いた。
食事も終わり、店を出て宿へと戻ろうとしたが煙草がそろそろ切れそうな事に気づく。「買って帰るから先に戻ってろ」と一人逆方向へと体を反転させると後ろから「俺の分も頼む」と声が聞こえる。
「なーんで、俺が三蔵様の使いっ走りにならなきゃなんねーの」
「別についでだからいいだろ」
確かに行く場所は煙草屋だし、別にそれ自体は構わないのだが三蔵に言われるのが癪でつい突っかかってしまう。悟空と八戒はいつもの言い合いが始まったと何も言わず事の成り行きを見守っている。が、ういちゃんはそれじゃあ、自分が行くと手を挙げながら俺と三蔵の間に入ってきた。
「なら、俺が着いてく。うい、行くぞ」
すでに俺なんか視界に入ってないかのように、俺の脇を抜けていく三蔵。その様子に呆気に取られているとういちゃんに服の裾を引っ張られて紙を見せられた。
"悟浄さんの分もちゃんと買ってきますね"
俺を見上げて任せて! と誇らしげに軽く胸を叩いて三蔵の背中を追いかけていく。隣にういちゃんが並ぶと自然と手を繋ぎ出した二人に俺が「社内恋愛の類いが禁止になる理由が今ならわかる」とボヤくと八戒は苦笑混じりに「あの二人は付き合ってる訳じゃないんですけどね」と突っ込まれる。
「そっちのが厄介じゃね?」
悟空の突き抜けるような疑問に俺も八戒も肩の力が抜けてしまう。
「ほんと、見てるこっちが痒くてたまんねぇよ。……いいや、先に帰ってようぜ」
俺がそう言って踵を返すと、「そうしましょう」と八戒と悟空も俺の後に続いて、宿へと戻った。
*
宿へと戻りしばらくすれば、二人が帰ってくる。三蔵は上を脱いで楽な格好になり、椅子に座って八戒が淹れていたコーヒーを飲みながら煙草を吸い出す。ういちゃんは俺の前にやってきて、買ってきてくれた煙草を手渡してくれた。
「ありがとな」と頭を撫でるとそれを嫌がるように三蔵が「うい、先に風呂入ってこい」と遮ってきた。ういちゃんは手ぐしで髪を直しながら口パクで「はーい」と返事をして、風呂場へと向かって行く。三蔵ちゃんはういちゃんの事が大好きですねーなどからかってやりたい所だが腹もいっぱいで無駄口を叩く気にはなれなかった。
ういちゃんがお風呂から上がり、首元にはタオルがかかっている。髪を乾かすのがめんどくさいのか適当に頭を拭いながら昼に買っていた本を読み始めた。
「次、僕入って来てもいいですかね」
俺も三蔵も悟空も特に八戒に異論は無く、八戒も風呂に入りに行った。ういちゃんが戻って来てから、新聞を読んでいる三蔵がチラチラとういちゃんを気にしている。そして、しばらくういちゃんに視線が止まったところで新聞を畳むと、低い声でういちゃんを呼んだ。三蔵大好きっ子なういちゃんは、呼ばれた! と目を輝かせて三蔵の元へと小走りをする。
「風邪ひくだろ。髪、早く乾かせ」
そう言われたういちゃんは自分の髪に手を当ててから、首元に引っかかったタオルで髪の毛の水分を拭き取るように頭を拭いた。
「んなので、乾くわけねぇだろ」
立ち上がった三蔵はどこかに行ってしまう。少しして戻ってきた手にはドライヤー。今まで自分が座っていたところに、ういちゃんを座らせて髪を乾かし始めた。俺はその流れるような行為にどんな表情をしていいかわからず顔が引きつってしまう。悟空が俺にそっと近づいてきて「三蔵、ういの事、気に入り過ぎだよな」と呟く。吸っていた煙草を口にくわえながら「同意だ」と返す。ドライヤーの乾かす音が響く中、扉が開いて八戒が帰ってくるとすかさず悟空が「次、俺!」と部屋を出て行ってしまった。
「ちょ、悟空! 俺が先」
「取られちゃいましたね、悟浄」
上げかかった腰をまた椅子へと下ろす。くそぅ、この空気から逃げたかったのに。イチャついているのが無自覚な二人に視線をやると、乾かし終わったのか三蔵が櫛で髪を整えている。
「八戒。もう俺、冷やかす気にもなれないんだが」
「僕もです。三蔵ってあんなにキャラ変わるんですね」
俺達がそんな会話をしているのも露知らず。ういちゃんは、三蔵に構ってもらえてウキウキだし三蔵は楽しそうにういちゃんの髪をケアし続けていた。
5万打企画リクエスト ほたる様より