彼は大人だから。歳は十一も離れているし、仕事はFBI。すぐに私の気持ちに気づいてくれて、会えないなりに寂しくない様にしてくれたり。気配りも出来て、思いやりも持っている簡単に言ってしまえば、完璧。そんな彼に何一つ不満などないのだが。

少しくらい弱い所を見せてくれてもな、とも思ったりしてしまう。そもそも秀一さんに弱い所なんて見当たらないし、悩みも自力で解決してしまいそうな人だから私は何も力になれなさそうなのも事実だ。それでも、仕事で疲れている時くらいは少しでも癒してあげたいと思ってしまうのはいけないことではないはずだ。

そんな事をグルグルと考えながらアパートの階段を上がり、鍵を開ける。するとそこには、男物の靴。家に来ると連絡が来てないのもいつもの事。時間が少しできて、任務先から家が近かったりすると顔を見に寄ってくれる事があるのだ。その靴を見ただけで顔が綻んでしまう。

リビングの扉を開けながら、「秀一さん、いらっしゃい」と声をかけるが。当人は大きい体を器用に曲げてソファで寝てしまっていた。近づいてみても起きる気配はない。すごく寝づらそうな体勢だが、起こしてしまうのも悪い気がする。ついでに手荷物を片付けるために、隣の寝室へ。部屋着に着替えて、毛布を持ってリビングへと戻る。毛布を掛けてもピクリとも動かないので、余程疲れているのだろう。とりあえず、自分の夕飯を作ろうとキッチンへ。

秀一さんは起きてから仕事に行ってしまうのか、夕飯を食べて行くのかわからないのでカレーにしてしまおう。ぐっすりと寝ている秀一さんを見ながら料理をしているとどこか新婚感があり少し照れくさくなってくる。切った野菜たちを煮込み、ルーを入れてしばらくするとお腹が空く匂いがあたりを包み込む。

時間を確認すると少し夕飯には早い時間だ。先に課題を終わらせてしまおうと秀一さんが寝ているソファを背もたれにして、机に置きっぱなしにしているノートパソコンをつけて課題に取り掛かった。



「うい?」

後ろから寝起き特有の掠れた声が聞こえる。振り返るとまだ眠たそうな秀一さんが辺りを確認するようにゆっくり頭を動かす。

「おはようございます。よく寝ていましたね」
「今、何時だ?」
「七時ですね」

もう一度ソファに横になった秀一さんは、左の手の甲を額に当てながら「いつ帰ってきた?」と質問される。「四時頃でしたよ」と答えたが、もしかして、起こした方が良かったのかな? と一人不安になっていると、秀一さんが声低く小さく笑う声が聞こえてきた。

「いきなり笑いだしてどうしたんですか?」
「いや、」

右腕で突然私の腕を引っ張り上げて、毛布に包まれた私。そのまま秀一さんに抱き抱えられてしまう。同じ体勢で課題をしていて固まっていた体がびっくりしているが、それ以上に秀一さんの行動の方が驚きで。自分がソファから落ちないように、大きな背中に手を回す。それでもまだ何かおかしいのか笑っている秀一さん。その姿が珍しくて。

「……秀一さん? さっきからそんなに笑ってどうしたんですか?」
「嬉しくてな」
「何が、ですか?」
「俺は普段ちょっとした物音でも起きるんだが。……ういになら殺されてしまうかもな」

一般の私が聞けば物騒なものの例えにどう反応していいかわからない。そのまま黙っていると一層強く抱きしめられる。秀一さんの腕の中から少し視線を上げると、ウトウトしている顔が。

「仕事、今日はもうないんですか?」
「ああ」
「もう少し寝ますか?」

一度頷いた秀一さんはすぐに眠りについてしまった。きっとだいぶお疲れなのだろう。……こんなに疲れ切っている秀一さんを見られるのは私だけの特権なのだろう。少なからず、私の前では気を張らずに休める場所であるなら私は全力で力になってあげたい。

「おやすみなさい」

私も一緒に眠ってしまおう。すでに夢の中の秀一さんにそう呟いて、私もそっと目を閉じた。



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