都内のとある病院の個室。ついているテレビからは、先日起こったデパート火災について報道がされている。犯人はすでに捕まっており事情聴取が進んでいるという。そして次に流れた被害者の名前が並ぶ中に上杉ういの文字。

俺はテレビから今テロップに流れた人物、ベッドに横たわるういに視線を移す。目立った外傷はないが煙の吸いすぎで一酸化炭素中毒を起こしている。助かった人から話しを聞けば最後までういはデパートの従業員達とともに避難誘導を行っていたとの事。ういらしいと言えばういらしいが。

「自分が倒れては始末に負えないな」

小さく呟いた独り言はテレビの音にかき消された。火災のニュースから次のニュースに移り変わる。一向に目を覚まさないういの頭を撫でていると、扉の向こうからノック音。咄嗟にういの頭から手を離したタイミングで扉が開く。この部屋は医療関係者とFBI関係者以外面会出来ない事になっているので、特に返事はしない。

「うい、まだ目を覚まさないの?」

病室を訪れたのはジョディだ。座ってる俺の隣に立ち、心配そうな表情を浮かべている。ういへの視線はそのままに俺は口を開いた。

「ああ。眠ったままだな。医者が言うには意識はあるみたいだからいつ目を覚ましてもおかしくは無いらしいが……。それより、仕事か?」
「いいえ。私もういの様子を見に来たの。それより、シュウ付きっきりよね? ちゃんと寝てるの?」

座っている俺の顔を覗き込み、腰に手を当てるジョディ。自然とため息が出てしまう。

「少しずつ仮眠ぐらいしているさ。ういが起きないと俺も次の行動を起こせないんでな」
「そうね、ういが情報掴んでいるし。下手に動けないものね」
「何だ。何が言いたい」

視線をジョディへと向けると、何やら口元を抑えて俺を見ている。何か言いたげな表情をしているジョディは楽しそうに口角を上げた。

「普段憎まれ口叩きあってるのに、ういがいないと動けないシュウがちょっと可笑しくて」

そう言って笑いを堪えている。確かに敵から恐れられている俺が部下無しで身動きが取れない様子は他の同僚から見ても面白がられる光景ではあるのだろう。

「じゃあ、また覗きに来るわ。目を覚ましたら連絡よろしく」
「ああ」

背後から扉の音が閉まる音が聞こえる。俺もコーヒーでも買いに行こうと椅子から立ち上がった時だった。ういの目元が微かに動いたのが視界の端に映る。再び座り直して、呼び起こすように「うい」と軽く肩を叩いた。少し身じろいだういは、ゆっくりと周りを確かめる様に目を開ける。視線を彷徨わせた後、俺と視線が交わった。

「……赤井さん?」
「そうだ、どこか痛いとこ」
「被害は?」

俺の言葉を喰うように火災の程度を聞いてきたうい。何人か重傷者が出てしまってはいるが亡くなった人はいないと伝えると力の無い声で「良かった」と聞こえる。

「犯人は?」
「事情聴取中だ」

天井へと視線を変えたういは、静かに自分が追っていた人物の特徴を並べ出す。

「男。身長170くらい。体格はよかったです。黒のアタッシュケースが一つ。中身はお金かと。火災直前駐車場へ。名前は武田光。申し訳ありません。これだけしか掴めて」
「わかった」

俺は枕元のナースコールを押して、立ち上がる。

「とにかく目が覚めて良かった。後は任せておけ。それと、なるべく早く復帰しろ」
「結構身体しんどいんですけどねぇ。上司命令ですか?」
「ああ」

いつものういの冗談に心のどこかで安堵が広がる。椅子にかけていた上着を羽織って、俺は火災の跡地へと向かうのだ。



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