「うい?」
「ん? どうしたの? 憲紀くん」

憲紀くんの部屋で夕飯後のまったりタイム。ベッドで隣同士に座って、私は携帯、憲紀くんは本を読んでいた。憲紀くんの視線は本のページに向けられたままで、落ち着いた声色だ。

「何かあったか?」
「何かって?」

意図がわからなくて、質問に質問返し。仕方ないじゃないか。だって、本当にわからないから。

「この間、私の家に一緒に行った時から何か様子がおかしいと思っているのだが・・・・・」
「・・・・・・・・・・憲紀くんが気にする事じゃないよ。私の問題」

こちらに視線を向けた憲紀くんの顔は私よりどこか不安気で。そんな表情されたら、私も眉を下げて困る事しか出来なくて。

私の家は代々続く呪術師の家系で、俗に言ういい所のお嬢様と言うところだ。けれども、そんな御三家の足元にも及ばない家系で。それでも、憲紀くん自身が私が良いと許嫁に選んでくれたのだ。優しくてちょっと抜けてる憲紀くんが私も大好きで、告白された時はすごく嬉しかった。だが、憲紀くんの実家にお招き頂いた時に実感してしまったのだ。背後から私にだけ聞こえるような悪口、妬みの数々。

「何であんな女が」
「色目でも使ったんじゃないのか?」
「そんな子が加茂に嫁ぐのは心配ねぇ」

もちろん歓迎してくれた人もいるがよく思っていない人も沢山いるようで。その声がチクチクと私の胸に突き刺さったまま。だから、決めたのだ。憲紀くんの隣に並んでも遜色ない人に、呪術師なろうと。でも、まさか憲紀くんに何かがおかしいと感じられているとは。心配はさせたくなかった。

「ういの問題だとしても私は気になるんだ。無理に話さなくても構わないが良かったら聞かせて欲しい」

真剣な顔で真っ直ぐこちらを向いて言われてしまった。私は憲紀くんの誠意ある素直さにも惹かれたのだ。こう真っ向から投げかけられたら、参ってしまう。それでも、やはり心配はかけたくない。慎重に言葉を選びながら私は口を開いた。

「憲紀くんの実家にお邪魔した時にもっと私は頑張らなくちゃダメなんだなって。ちょっと考え込んじゃっただけだよ。だから、心配しない・・・・・」

言い終わるが前に憲紀くんの胸に引き寄せられてしまった。背中に回って来たあったかい腕に思わず泣きそうになってしまう。誤魔化すように私は強く目をつむる。

「ういはすでに頑張っているじゃないか。きちんと術式の練習をしているのも知っているし、人一倍何事にも真剣に取り組んでいるのも。もう充分に頑張っているから私のまでは強がったりしなくていい」

ああ、もう。我慢していたのに。何の飾りもないシンプルな言葉に涙が溢れてきてしまう。それ以上憲紀くんは何も言わずに、私の背中を優しくさすってくれた。こんなに弱い私でいいのだろうか。すぐに悪い方に考えてしまう私のよくない癖。それでも今は憲紀くんの優しさに甘えたいと思ってしまう私はやはり強くならなければと思うのだ。



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