ういから一緒に勉強しようと誘われた。そして、わかってはいた。はとりとあーやも一緒な事くらい。いつだって、ういは僕の気持ちに気づくことなんてないのだ。それでも二人きりだったら、みたいな淡い期待を抱いてういの部屋の襖を開いてしまう。

「紫呉! 遅いよー」

開いた襖の向こうから僕に気づいたういが声を上げる。その声に襖の手前側に座っている二人も振り返った。ういの隣が空いてるのもいつもの事。あーやはともかくはとりには気持ちがバレバレで。机を周り込んでういの隣に座る。するとういがこちらに体を向けていきなり顔を近づけてくる。咄嗟のことで身動きが取れず固まったままの俺にういは自分の額と僕の額を合わせてきた。

「え? どうしたの?」

驚きながらも絞り出した声で聞くと、「なんか顔色悪かったから熱でもあるのかと思って」と離れていった。

「別に何ともないよ。大丈夫だから」

内心心臓がうるさい程高鳴っているが、平静を装うのは上手い方だとは思う。「今、どこ勉強してたの?」とメインに話しを持っていくと、だるそうな声で「数学」と返ってきた。

全員同じ教科を勉強しているのかと机の上を見ると、あーやとはとりの前には数学とは別の教科書が広がっている。

「あーやとはーさんは別の勉強?」
「ういに教えながら、自分の課題をしていたのさっ」
「紫呉が来たなら、ういは紫呉に任せる。いいよな?」

有無を言わせないはとりの圧に「わかった」としか答えられなかった。とは言ってもういは基本的に頭が悪いわけでは無いので、わからないところを丁寧に教えればすぐに理解してくれる。そこは問題ないのだが……。少し集中力が切れたのかあーやが肘をついて、口を開く。

「うい。ずっと気になっていたがまた何かされたかい?」

僕が気になっていた疑問をあーやが聞いてくれた。主語が無いもののそこに慊人が入るのは、ここにいる誰もがわざわざ確認しなくてもわかっている。紙に軽く添えられている左手には力が入っていない。それは僕もわかっていた。それでもういは気にしていなくて、「どうして?」と返してくる。それに対してはとりが持っていたシャープペンシルで向かいに座るういの左手を指すように机をコンコンと軽くノックした。

「三人とも鋭いなぁ」

笑い混じりのその言葉に場の空気が静かになってしまった。「大丈夫、軽い捻挫」と立ち上がるうい。

「疲れちゃったし休憩しよ。ケーキ買ってきたんだ。持ってくるね」
「それならコーヒーでもいれようか。うい、手伝うよ」
「ありがとう」

あーやがういと部屋を出て行く。足音が遠ざかったのを見計らって、はとりに話しかけた。

「ういって慊人の事、本当に気にしてないよね。僕としてはもっと注意して欲しいんだけど」
「怪我しても俺達に遠慮してるのか詳しく話してくれた事もないしな。本来であれば俺達がういに近づかないのが最善の策ではあるんだが……」
「ういから誘われちゃ誰も断れないよね」

あの柔らかい雰囲気。この殺伐とした草摩の、物の怪憑きの空気感を忘れさせてくれるのがういという存在なのだ。甘えているのは、僕達の方で。

「左手大丈夫かな」
「普通に日常生活は送っているから大したことはないんじゃないか。少し力を変な風にいれると痛いんだろう」

どこか釈然としないまま会話をしていると案外早くケーキと共にういとあーやが戻ってきた。机の上の教科書やノートを片付ける。白の四角いケーキの箱を机に置いて、皿やコーヒーが並ぶ。箱に書かれている店名を見るとつい最近近くに出来たケーキ屋のものだ。箱を開けると色とりどりのケーキが四種類入っている。それぞれに好きな物を取り分けた。

隣で行儀よく手を合わせて、いただきますと食べ始めるうい。楽しみにしていたケーキなのか目が輝いている。その光景に思わず自分の手を止めて見てしまう。思わず可愛いと口元が緩みそうになってしまうのを必死に堪えているとういから話しかけられてしまった。

「どうしたの? こっちジッと見て……。もしかして、ショートケーキのが良かった?」

そう言ったういは自分のケーキを一口分フォークに取り、そのフォークをこちらに向けてきた。

「はい」

所謂、あーん状態のそれ。横目ではとりとあーやを見るとういのそう行った行動に慣れているのか無反応。別にショートケーキが食べたかった訳ではないのだが。ういに視線を戻すと、ほらと言うようにフォークを軽く突き出してくる。口を開けると放り込まれるスポンジと生クリーム。咀嚼をするも正直カップルがするような行為をしてくるういの方に気を取られて味なんてしない。

「美味しい?」
「うん。美味しい」

そんなありきたりの返答をする。「良かった」と体制を戻したういはまたショートケーキをつつき始めた。

準備はういとあーやがしてくれたので、片付けは僕とはとりでする事になった。トレイに食べ終わった食器達をまとめて、台所へ。

「お前はいつういに告白するんだ」
「いやいや、脈ナシの所に告白出来るほど僕の心臓は強くはないよ」

流し台に食器を置いて、部屋へと戻る時もこの会話は続く。

「そうか」
「うん。それに今僕が告白したとしてももっと別の問題もあるしね」
「……こちらとしては、何も意識してないういの距離感が近すぎるのは見てて面白いけどな」
「外野は楽しそうでなによりだよ」

軽く笑い合いながら、勉強の後半戦へと部屋戻るのだった。

ゆき様へ 呪術アンケートお礼リクエストより



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