「この間ね、お姉ちゃんに子ども見て欲しいってお願いされたんだぁ」

ういの家でのんびりと過ごしているかなり珍しい休日。携帯が鳴ってしまえば、そこまでの話しなのだが。だけど、この貴重な時間は大切にしている彼女のういの為に使いたい。まとまった時間はういと一緒にいる。付き合う時に自分の内で決めた事だ。

ういとの出会いは、そのお姉さんがきっかけだ。一個上で公安の先輩。俺の事をお気に入りと呼んで、よく面倒を見てくれ可愛がってくれた。そして、五年前に寿退社。その一年後に子どもが産まれた。仕事が忙しく結婚祝いが出来なくて、せめて出産祝いだけでもと家に遊びに行かせてもらった時にいたのがういだ。

先輩の後押しもあり、めでたくういと付き合える事になった。ういは先輩のせっかちでしっかりとした性格とは、真逆だ。のんびりマイペースで抜けている。そんな所がまた可愛いんだが。

「ねぇ、零さん。話し聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ。先輩の子どもの面倒見てたんだよな」

「そう」と笑ううい。

「それでね、今言葉が段々わかってきて絵本読むのが好きなんだって。だから絵本をたくさん読んだの」
「案外大人になってから読んでも面白いものもあるよな」
「そうなんだよね! あとプリンセス物が懐かしくてさぁ」

「お姉ちゃんが小さい頃好きで家にほとんど揃ってたの思い出しちゃった」と続いた言葉に今は男っ気の方が強い様な気がしなくもない先輩の意外な幼少期を見た気がする。今度、話しのネタにしてみよう。

「今のお姉ちゃんからは想像出来ないよねー」
「ああ。どっちかって言うと男の子に混ざって遊んでるタイプかと」
「何かね、お姉ちゃん曰くあんたがのんびり屋だからしっかりしなきゃって思ったんだって」

その思考回路に今の先輩ぽいなと思う。

「ういも好きだったのか? プリンセス物」
「好きだよ! やっぱ憧れちゃうよね!」
「どの話しが好きなんだ?」
「人魚姫かな。元が悲しい物語だけど」

ソファで隣同士に座っていたういが、足を抱えて座り直す。そこに顔を埋めたういはどことなく浮かない表情をしている。

「零さんがすごく忙しい人なのは知ってるよ。けどね、たまに浮気してるんじゃないかって心配になっちゃう」

人魚姫と自分をちょっとだけ重ねて考えでもしてしまったのだろうか。少し眉を寄せて苦しそうにそう言ったうい。心のどこかで嫌な胸騒ぎが起きる。このままだとういがどこかに行ってしまうかもしれない焦燥感が襲う。それを引き止めるように、誤魔化すように抱き寄せた。

「俺はちゃんとういが俺を救ってくれたことをわかってる。うい以外いない」

周りの仲間が亡くなって、大切な人も亡くなって。それでも、必死に頑張ってきた。けど心はどこかで疲弊仕切っていたのだろう。ういに会った時、朗らかに笑うのを見て心の緊張が解けたのを感じたのは確かなんだ。

「良かった……」

ういも俺の背中に手を回してくる。絶対にういだけは、失いたくない。「痛いよ」と言葉とは裏腹に優しく微笑むういを一層強く抱きしめた。

title:icca



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