よくある話だ。よく行くスナックに若くて可愛い女の子が入ってきた。周りのおっさん連中は「ママ、可愛い子が入ってくれて良かったね〜」とデレデレだ。まぁ、俺も例外ではないが。

「ういちゃん、もう一杯ちょうだい!」
「俺にも! とびっきり美味しく注いでね!」
「はい、かしこまりました!」

酔っ払ってテンションが上がったお客さんに元気良く返すういちゃん。大体こんなの営業スマイルだろって最初は俺も思ってた。けど、違うんだ。町中でたまに見かけるういちゃんは、誰に対しても親切で優しいのを知っている。

それは、太陽も真上に昇った頃。路上に酔っ払いが気持ち悪そうに蹲っていた。通行人は関わりたくなくて、避けて通っている。そんな中、「大丈夫ですか?」と背中を摩りに駆け寄ったのはういちゃんだったのだ。

その様子を知っているから彼女は純粋で汚れなくて、ちょっと加虐心が湧いてしまう。そんな子なんだ。

テーブル席でのお客さんとういちゃんの陽気なやり取りを少し離れたカウンターから見ていると、お酒を作りにこちらへと戻ってくる。見てた事を悟られたくなくて、慌てて視線を自分の手前のグラスに戻す。

「銀さんのグラスも空きそうですね。おかわりされますか?」
「いや、相変わらず金無くてよぉ。今日はこれで終わりにするわ」
「かしこまりました」

人の事をよく見ているし、仕事の手際もいい方なのだろう。俺のお会計を済まして、「また来てくださいね」と可愛い笑顔を見せてくれた。そして、すぐにさっき頼まれたお酒を作りに戻っていく。引き戸を開けながら小さく手を振るとちゃんと見てくれていて、手を振り返してくれた。

歩いて少しある万事屋へと足を進めながら、考えるのはういちゃんの事。……彼氏とかいるのか。俺はあの店で働いている所と酔っ払いを介抱している姿しか見た事がない。付き合えたりしたら、怒っている姿や照れた姿、キスしてる時の顔とか、エッチ中とか。そんな妄想が止まらない。けれども、きっとどんな反応を示しても可愛いのだろうなぁと想像は加速する。それと同時にからかったり、虐めてみたいなんてちょっぴり悪戯心も湧いてきてしまう。

そんな疾しい事を考えていると、あっという間に万事屋に着いてしまった。中では神楽が健やかに寝ていることだろう。明日は朝に仕事が一件あるから少し早起きをしなくてはいけないのだ。さっきまで考えていた事を払う様に頭を横に振る。変な事を考えていると、眠れやしない。しかし、階段を昇りながら頭に思い浮かぶのはやっぱりういちゃんの愛らしい笑った顔なんだ。



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