春。終わりと始まりの季節。俺の勤める学校も例外なく卒業式を終え、好きだったと何名かの生徒から記念告白みたいなのをもらい、あっという間に入学の季節だ。新しい制服、鞄、環境、義務教育という世間的な段落をひとつ終わらせた何もかもが新鮮といった1年生達がやってきた。だけど、毎年数名、環境に慣れない生徒達がここ、保健室を心の拠り所に集まってくるのだ。

入学式も終わり、夏休み目前の最初の期末テストあたりからクラスメイト達にも慣れ始め、徐々に教室に行き始めるのが常なのだが今年はなかなか教室に戻れない生徒が1人。

今日も俺の城である保健室の扉を開けると、先に我が物顔で俺の席である職員机の前に座っている奴がいる。近づいて持ってきたファイルで頭を小突くと暴力はんたーいと回転椅子を回転させ俺の方を向いた。

「はいはい。訴えでもしてくれ。とにかくそこどけ。大事な書類とかあるんだ」
「はーい」

素直にどいた上杉は、いそいそと近くのベッドに潜っていった。そう、1年3組の上杉ういは教室に戻れずにいる。

「おい。そろそろ期末だろ。授業出なくていいのか?」
「うん。私、勉強は出来るから。高杉先生、先生みたいな事言うね」
「一応、先生だからな」

口は悪いし、態度も悪い。ただ、頭は本当に良いようでこんな調子なのに中間試験では学年3位だった。誇らしげにテスト結果を掲げて保健室に来たのを覚えてる。友達が出来ないような性格でもないし、なんならクラスの中心にでもいそうなのに。心の問題とやらは、この仕事についていろいろ見てきたくちなので、俺にはわからない何かがあるのだろう。俺も無理には戻そうとせず、したい様にさせている。

それにあってはならないが、生徒にわずかな恋心を抱いていた自分がいた。ここにいれば、他のやつに取られることもないし俺も安心だ。もちろん、教員としての立場では学校生活に馴染んで欲しいところだが。

「せんせー」
「何だ?」
「私ね、何で自分が教室に行けないかわからないの」
「そうか」

たまにういは自分の頭の整理なのかこういった質問を仕切られたカーテンの向こうからしてくる事があった。専門的なカウンセリングは出来ないが、話しをじっくりと聞いてやることくらいなら出来るので、毎回肯定をしながら聞くのが俺のスタンスだ。

「でもね、保健室には来れるんだ」
「そうだな。家に引きこもってるよりかは偉いぞ」

やったー、褒められたーとちょっと嬉しそうな声が聞こえる。そう、まだ完全に学校に来れないより幾分かマシだ。

「私ね、保健室に来れる理由はわかるんだ」
「おお。何だ?」
「先生がね、好きなの」

記念告白には早いぞ。なんて言ってやりたかった。好きだと想ってたヤツに好きだと言われて黙ってられるヤツがいたら俺は見てみたい。俺が黙ってしまったのが気になったのか少し不安げな声で先生? と聞こえた。仕切りのカーテンを開けると、布団を抱えた上杉が涙目になりながらうずくまっていた。何で開けるの! と布団で必死に顔を隠す上杉。

「やめてよ。今から振られるのはわかってるから」
「何でそう決めつけんだよ」
「だって、って、え?」
「俺も上杉が好きだって言っちゃっダメなのかよ」
「せ、先生的にはアウトって、え?」
「そうだな、上杉が真面目に教室に通うようになったら付き合ってやらなくもないな」

俺の返答に驚きながら少しずつ顔を見せてきた上杉。俺も俺でなんで、素直にやったぜ、なんて思ってしまっているのか。

「それは、ずるい」
「大人はずるいんだ。さぁ、どうする?」
「ねぇ、それって先生も私の事好きって事? 私読み違えてないよね?」
「そうだな」
「ハッキリとした解答が欲しいです。先生」

突然の正した言葉遣いにこっちもきちんと応えなければという気持ちにさせられてしまう。もちろん、世間的にはアウトな話しだが当人たちが良ければ問題は無いとも俺は思っているから。

「好きだ。うい」
「名前、」
「ほら、2限目からは出るんだぞ」

カーテンを勢いよく閉め、俺は業務に戻る前に机の上にある付箋に電話番号とメールアドレスを走り書きするのだ。

title:サディスティックアップル



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