そこそこ好みな子がいる。2年生の春、新人マネージャーが並ぶ中、彼女を見つけてそう思った。

彼女は1年目、とても熱心に働いてくれた。気にかけて声をかける人も少なからずいた。今日も練習を終えて、お疲れ様ですと挨拶を交わすだけ。気にはなっていたが、不思議と過度なアピールや意識をしてもらおうと思っていなかった。

そんな平凡に2年生を終えようとしてたが、キャプテンの話が俺にやって来た。快く了承をすれば、もちろんこれまであまり話さなかったマネージャーや部員とも話しをする訳で。もちろん、その中に上杉ちゃんも含まれている訳で。

そんな中、やってきた天才肌の影山飛雄。バレーでは圧倒的な才能に慄いたが、俺には俺のやり方があると思い直しながら日々を送っていた。バレーで脅威な存在なのに、少しすると彼の目は上杉ちゃんを追っているのに、気付いた。そして、上杉ちゃんの目も彼を追っていた。周りは気づいていない、気にしていない様子をみると、俺が上杉ちゃんを意識しているのは事実だということが浮き彫りになっただけの事。

その時付き合っていた彼女にも俺の気持ちに気づかれていなかったので、そのまま上杉ちゃんには何もアクションは起こさなかった。なんなら、別に飛雄と付き合い始めても遠くから眺めてたまに話して、それくらいで充分だとさえ思っていた。所謂可愛い後輩ちゃん程度の意識だ。

ただ、ある日この時だけ。なぜか魔が差したんだ。練習が終わった後に何となく、本当に何となしに彼女を呼び止めてしまった。

「上杉ちゃん」
「何ですか? 及川さん」

誰にも変わらない笑顔で話してくれる彼女の目は飛雄を見ている時にだけ変わる。そんな事に固執している俺は本当に誰よりも上杉ちゃんの事が好きなのではと錯覚してしまう。適当に今後のスケジュールを話していると、飛雄がこちらを見ているのに気付いた。ここで好戦的に飛雄に笑顔を向けるのも、意味もなく彼女に近づくなとも牽制をかけるような視線を向けるのも、何だか大人気ない気がして、見ないふりを決める。ふと横目で飛雄を確認するも、当の本人は何も気にしていないように見えた。それなら、それでいい。

「及川さん?」
「ごめんごめん。じゃあ、そんな感じでよろしくね」
「はい、わかりました」

上杉ちゃんときちんと話しをしたのは、その時だけ。付き合っている彼女ともチームメンバーとも円満に俺はそのまま中学を卒業した。残る仄かな恋心を残したまま。

それからしばらくして、風の噂で上杉ちゃんと飛雄が付き合い出したと聞いた時、俺はまだ付き合っていた彼女に振られた。

「徹は、私を見てないよね」

そう寂しげに笑った彼女には、申し訳ないと謝ったが、彼女は苦しげにいいよと言ってくれた。我ながら中々に良い女を逃したのでは、そんな後悔より半年も会っていない上杉ちゃんを想っている事に結構重症だった自分自身に笑うしかなかった。



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