「疲れたー」
「ご苦労だったな」

買い物袋を食卓に置いたういは、すぐに椅子に座り項垂れてしまった。まぁ、彼女には慣れないことだから、疲れてしまうのはしょうがないと労いを込めてお茶をいれる。

「ありがとうございます」

少しお茶を飲んだういは、さてここから買ってきた物片付けないないとねと先程より少し元気になったういは立ち上がって、冷蔵庫を開け始めた。そんな後ろ姿を見て思い出す。呪いが解けて、少し経った頃を。

「うい、これからは外で生きていかなければならない。とりあえず、最初は俺と外に出よう」
「そう……ですね……」

まず殆ど草摩の中で何もかもお世話されたういに1人である程度の事は出来るようになってもらいたかった。不安そうなういを外に連れ出した頃は、見るもの全て楽しそうにしていたが、やはり少しずつ慣れてくると今のように疲れが出てくるもので。

片付けも一通り済んだ頃、美味しそうなお茶菓子を買ってしまったからお茶にしようと、買った茶菓子を手に縁側にいてくださいと言われ白衣を脱いで、腰を下ろした。暫くすると、ういがいれてくれたお茶とともにお茶菓子を出される。ういも俺の隣に腰を落ち着かせた。茶菓子をひとつ摘むと隣から視線を感じる。その顔は美味いかどうか聞いているのがすぐにわかり、美味いと答えると良かったぁと嬉しそうにういも菓子を食べ始めた。

こうして2人で仲良く穏やかに過ごせる日が来るなんて、夢にも思わなかったのだ。呪いが解け、慊人がみんなに自分は女だと明かした日。ういはすぐに俺の元へとやって来た。泣いてる様な、笑っている様な何とも言い難い表情のういがそこには立っていた。

「はとりさん」

そう呼んで俺の目を見たういに、ああ、やっと、もう阻むものは何も無いと。けれどもこれからも続く心の傷とみんな向かい合っていかなくてはいけない。俺もういもその1人な事を強くこの時に実感したものだ。

「好きです」

力強くそう言ったういを気づけば抱き締めていた。素直に俺もだと答えればいいもののやっと慊人に勝てたなと捻た返事をしてしまったのは、ちょっと心残りだが先に告白したのは俺なので良しとしようと今は思う事にしている。

のんびりした時間の中、ういと目が合った。きっとまだ慣れていない生活の中で戸惑う事も多いだろうういはやはり少し疲れ気味で眠そうだ。

「少し昼寝でもするか?」
「けど、今から夕飯の支度をお手伝いさんとやるんです。もう少し頑張ります」
「そうか」

足を三角に曲げて座り、そこに顔を埋めるういの頭を撫でるといつまでも子ども扱いしないでくださいと顔を上げた。悪い悪いと手を離すとういが肩にもたれかかってくる。

「はとりさん、好きです。大好きです」

ずっと言えなかったからとういは時折何回も俺に思いを伝えてくれる。そんなの嬉しくないはずが無くて、俺も再度頭を撫でて俺も好きだと伝える。そんな幸せ。

「まだ夢を見ているみたいなんです。眠っている時に出てくるあの暗い部屋にいる私が本当なんじゃないかって、まだ怖いです」
「それは、みんな同じだろう。俺もまだ癒えていない事がたくさんある……」

そんな中で思いを分かち合って、寄り添える相手がいるだけで、充分なのだ。高望みなどしない。ういがこうして隣にいてくれる事実が何よりの励みで、これから戦わなければならない山程の問題にも少しずつでも立ち向かおうという気持ちにさせてくれるのだ。

「そろそろ、台所戻らないと」

お盆を持って立ち上がったういに続いて俺も残りの仕事を早く片付けてしまおうと立ち上がる。慊人のお守りは無くなったが、それでも医者である以上、仕事は無くなりはしないのだ。

「はとりさんもお仕事頑張ってください。美味しい夕飯作って待ってますね」
「ああ。楽しみにしている」

台所に戻って行ったういから視線を外すと太陽が沈みかけていた。もうすぐういが好きな月が現れるが、最近は太陽のが好きかもとくすぐったく笑ったういを思い出しながら、朱に染る空を見上げた。

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