由希くん達は学校に行ってしまい、その後いつもは静かな家の中。しかし今日は昨日から泊まっているあーやがいるので、彼の存在感的にも静かとは程遠い家の中だ。2人で居間でのんびりとしていると、この時間には珍しいお客様がやってきた。インターホンの音で玄関に出るとそこには、うい。それこそ珍しい人物に少し驚いてしまった。

「珍しいね。どうしたの?」
「急に来ちゃってごめんね。ちょっと古い本で欲しいのがあって、買いに行くより紫呉の家にあったりしないかな? って探しに来たんだけど、今いい?」
「もちろん。探してるのがあるといいんだけど」

ういを家にあげて僕の部屋と案内する。家にあーやもいる事を伝えると後で顔を見せると本棚からお目当ての本を探し始めた。

「僕も手伝おうか?」
「んー、大丈夫。他にも気になるのあったら借りてもいい?」
「お好きなだけどうぞ。じゃあ、僕はあーやと居間にいるから」
「はーい」

戸を閉めて居間に戻る。暫くするとういは目当ての本を見つけたのか居間に顔を出しに来た。それとは別に手に何やら分厚い本を持っている。

「やあ! うい」
「綾女、久しぶり! そうそう紫呉の部屋で探し物してる間にこんなの見つけちゃった! 懐かしくない?」

ういが手に持っていたのは、僕らの昔の写真が入ったアルバムだった。

「それはまた懐かしいものを」
「うい、見せてくれ」

あーやはういからアルバムを受け取る。ういもお茶もらうねと自分で飲み物を準備して、座布団に座った。少しアルバムをめくっていると、玄関の方から若い声3人が帰ってくる声が聞こえてきた。

「由希くん達、帰ってきたみたいだね」

居間の扉が開くと、何やらショック顔の夾と由希くん、そして透くんが帰ってきた。あーやが優雅にお茶を飲みながら3人の帰りを迎える。

「学校からまっすぐ家に帰ってくるとは、そんなにボクとお話したいのかい? ボクとしてはまた透君と2人きりになりたいけどねっ」

僕もおかえりーと迎えるとういもお邪魔してます、おかえりなさいと続いた。

「ういさんもいらしていたのですね」

そう言って、近づいてきた透くんが僕達が覗いていたアルバムに気づくとうわぁ……っと声を上げる。

「ピチピチでしょう」
「はいっ。ういさんもとても可愛らしいです! 綾女さんはこの頃から髪が長かったのですねっ」
「そうともっ。校則違反だったけれどねっ」

そう言ったあーやにえ。っと少し引き気味の透くんを他所にあーやは弟の由希くんにアルバムを差し出している。

「ホラ由希、君もみたまえっ。兄を知る事ができるチャンスだよっ」

歩み寄ろうとするあーやに対してやはり由希くんは素っ気ない態度だ。でも、そこで挫けないというか気にしないのがあーやで、なぜ長髪でよかったのかの説明を誰も聞いていないのに、話し始めた。あーやの適当な話しを透くんが真正面から受けているのに、すかさず夾くんのツッコミが入る。

「そんな事もあったねぇ」
「うんうん。懐かしいねぇ」
「信じ……られない……」

ういと2人で昔を思い出している傍らで由希くんがかなりのショックを受けてしまっていた。その様子が面白くてつい畳み掛けてしまう。

「じゃあ、もっと信じられない話をしてあげよう。あーやは生徒会長だったんだ」

文字通り言葉も無い由希くん。それを見てういはいい反応するねぇとどこか楽しそうだ。透くんもそれはスゴイですっと少し驚いている。

「なんだかんだ言ってあーやは生徒の人気者だったからね。まあ、みてくれもあるけど」
「冬とか毛皮で登校してたしね。目立ってたなぁ」
「ボクは寒さに弱いからねっ! 仕方ないさ」
「何より破天荒なあーやの行動には皆ひかれてたし、校則や行事もあーやの代で大きく変わって楽しくもなったんだよ。実力があったってことかな?」
「イヤぁ、ボクとしてはとりさんの方が会長として適任と思ってたけどねっ。やはり責任は重いし……。覚えているかい? あの修学旅行の事件を」
「ああ、アレね」
「忘れられないよ、アレは」

ういがすでに呆れ気味だが少し兄に対して興味が湧いたのか由希くんが何があったの? とあーやに返す。

「それがねぇ、1部の生徒が旅行中に……。まぁ、いわゆる歓楽街に赴いてしまってねっ」

3人がはぁ。とこれまた呆れ顔。ういは3人の反応が面白いのかそれを眺めながらまた笑っている。あーやは気にせずに話を続けた。

「おっとっ、頭ごなしに責めないでやってくれたまえっ。健康的男子ならば、誰でも入りかねない場所なのだからねっ。それからボクらは赴いちゃいないよっ」
「もう、そんなめずらしくもなかったしね」

ついそう口走ってしまって、ういを横目で見やったが、知っていたのか特に何も言って来なかった。ただ、なんとなく勝手に気まずくなって誤魔化す様にお茶をすする。

「それでだっ。運悪くというか教師にバレてしまった訳だっ」

また、あーやの昔話は続く。話し終えたあーやに夾くんがアホ話だー!! と大きい声で突っ込んでくれた。そう、まさにアホ話なのだ。

「それでも、最後まで会長やったけどね」
「なんでだーっっ」

今日は夾くんのツッコミが無いと追いつかない日だなぁ。あーやは由希くんにいい笑顔で兄の姿を理解出来たか聞いているけど、由希くんには到底響いてないようで、出ていけと強めに言われてしまっている。また、昔の話を始めようとするあーやに夾くんと由希くんが本気で止めに入り始めていた。

「ごめんね、私も止められないの」
「基本的に僕の言う事もきかないしねぇ。唯一きくとすれば……」

そう言いかけた時、おいと聞き慣れた声が耳に届く。

「鍵が開いていたから、勝手に邪魔したぞ」

突然のはーさんの登場にびっくりしたが、どうやらあーやを連れ帰りに来たようだ。

「今日はここら辺にして、帰ったらどうだ綾女」
「じゃ、バイバイ」

爽やかに立ち上がったあーやはみんなが驚いているのを他所にすでに帰るモードだ。

「とりさん、歩きで来たのかい?」
「いや……下に車が付けてある」
「車なら私も家の方面まで送ってもらってもいい?」
「ああ、構わないが」

どうやらういも帰るようで、はとりは2人を連れて出て行った。突然の嵐が去ったように、夾くんはぐったりと疲れている。そんな中まだアルバムを見ている透くんに声をかけられた。

「紫呉さんは昔からういさんととても仲がよろしいのですね!」
「……どうしてだい?」

何ページかページを捲りながら、透くんが指を指していく写真達。特に僕に思い当たる節は無い写真だが。

「どれも、ういさんの隣に紫呉さんが映っていらしたので、仲がよろしいなと思いまして……」
「……ああ。言われてみれば、そうだね」

まさか透くんにそんな指摘をされるとも思っていなかった僕は思わず返答が遅れてしまう。僕自身も忘れていたが、物の怪憑きでないういはどんどん周りと仲良くなっていた。もちろん、ういを狙ってる男も少なくなくて。それが嫌で牽制の様にずっとういの隣にいたのを思い出した。ういはそれをわかってはいないようだったが。どの思い出よりも懐かしい青臭い思い出に少し恥ずかしくなり、透くんからアルバムを奪って、お茶のおかわりを催促した。何となく開いたページのういの笑顔は今も自分のもので無いことに、自分の片想いの長さにため息をつくしか無かった。

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