「相変わらず汚い部屋だな」

そう言ったのは、彼氏なのか友人なのかセフレなのか、昔からの腐れ縁で離れられない幼馴染なのか。いまいち関係性がわからない四木春也だった。まぁ、幼馴染と言っても5つ違いの兄の様な存在の男なのだが。そうか、この人は私の兄的存在? いや、体の関係がある時点でそこは考えたくない。

転がっているお酒の缶や瓶。脱ぎっぱなしの衣服。床がまだ見えているだけ合格点と思っているあたり私はかなり社会不適合者なのだろう。そんな散らかっている床の上を器用に進み、カーテンを開け窓を全開にさせられた。外の空気との入れ替えは気持ちがいいが、未だベッドの上で下着姿にキャミソール1枚で布団にくるまっている私とっては些か爽やか過ぎる。薄目を開けると、彼が床に散らばっているものを拾い上げて片付けていくのが見えた。

机の上に手を伸ばした煙草とライターは、私のものでも彼のものでも無い。昨日家に来た素性もよく知らない男のもの。そこらのバーで知り合ってそのまま私の家になだれ込んだんだっけ。気だるい頭でそんな事を思う。そういえば、勝手に帰ったのか。きっと今ここにいても春也くんにビビって慌てて逃げ出して、結局煙草もライターも忘れていったのだろうけど。

一瞬チラリとこちらを見やった春也くんは、その忘れ物を手に取ると投げ捨てるようにゴミ箱へとそれを放った。粗方片付け終えたのか、ベッドの端に座った春也くんは私の頭を撫でる。まだまだ眠気が残る体にそんな事をされたらまた夢の中へと落ちてしまうではないか。

「今日、仕事は?」
「今は依頼ゼロだからニートだよ」

私の仕事は情報屋。なので、依頼がない限り私は無職と何ら変わりはないのだ。

「春也くん」
「何だ?」
「お腹空いた」
「残念だったな。俺は今から仕事だ」

時間が無いのになぜ今ここにいるか。そんな疑問が湧き上がる。そもそも、春也くんは結構忙しい人だ。なのに度々私の元へと訪れる。やっぱりよく分からないけど、そんな彼に依存している自分も事実だ。何だかんだ彼が面倒を見てくれる、と。

「えー」

強請るように腰に手を回して足をバタバタさせる。子どもっぽく可愛く強請れば、時間が無いといいつつ何か買ってきてくれるかもしれない。そんな甘い考え。

「悪い。本当に時間がない」

私の回した腕を無視して立ち上がった春也くんは、まとめたゴミ袋を手にした。急に行き場を無くした腕はそこにだらしくなく伸びる。

「そろそろ部屋が汚くなる頃だろうとゴミ捨てに来ただけだ」
「何それ」

じゃあな、と部屋を出て行った春也くんを視線で見送る。鍵が閉まる音と共になるお腹。思わずお腹を抱えて、じわじわと押し寄せる空腹に耐える。そんな中、わざわざゴミ出しに来た春也くんの事を考える。

きっと、私が本当に捨てなきゃいけない者は、春也くんなのだ。春也くんは春也くんで、こんな私にいつまでも付き合って可哀想にとどこか他人事に考えている私も早く捨てた方がいい。

少し身を乗り出して、全開にされた窓から網戸越しにゴミ捨てをする春也くんを見つける。その光景に似合わないと笑ってしまう。私の視線を知ってか知らずかこちらを見上げた春也くんに手を振るとため息をついて、そのまま行ってしまった。春也くんの遠くなる背中を見ていたら、またお腹の虫が音を立てる。本当に何かなかったっけと重い腰を上げて、冷蔵庫を開けるとそこには私の好きなコンビニのチープなプリンとおにぎりが2つ置いてあった。買った覚えも昨日の男が買った覚えもないご飯達に、1番要らない者は私だと少し目頭が熱くなった。

title:すてき



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