彼女はこの戦乱の中でも笑顔を絶やさずに大丈夫ですよと兵士達を励まし、懸命に俺たちの怪我の手当や看病に当たっていた。たまに銀時や桂、坂本が少しは息抜きをとどこから調達してくるのかわからない甘味を差し入れていたり、面白い話などをして彼女を楽しませているのを見かけた事がある。

今日も幾多の天人達を切り倒し、そこかしこに出来ている傷の手当を彼女にしてもらい少しは休もうと床に着いた。しかし、連日続く戦に頭がどうにも冴えてしまいなかなか眠りに着くことが出来ない。頭を冷やそうと起き上がり、戸を開けた。

日中とは違い綺麗な星空が外を埋めつくし、静寂が辺りを包み込んでいた。ただ、夜の内を狙って攻め込んでくる事も無い訳ではないので、外にいる見張りの奴に交代すると声をかける。見張りは深々とお辞儀をしてお礼を言うと伸びをしながら、戸の向こうに姿を消した。

少し辺りを見渡すと彼女の姿が見えた。近づくと聞こえてきたすすり泣く声に足を止めてしまう。いつも笑っている姿しか知らないので、その別の姿に銀時達が彼女を楽しませている様子が頭をよぎる。

心の内で俺の柄じゃねぇと呟く。ただ、ひとつ思い出した光景。今日の慌ただしい戦闘中ふとやった視線の先に、隅の方に咲いている小さな花の存在と同時に浮かんできた、彼女の優しい笑顔。

彼女から離れ確かここら辺だったと歩を進めると踏み荒らされた花達がそこにあった。そこに先程見た悲しそうな彼女の姿が重なってしまう。……面白い話なんぞ持ってねぇ。いつの間にかどう彼女を慰めようと思考している自分自身に驚きながらも、とりあえず声をかけるかとその場を離れようとした時、踏み倒されずに昼間と同じように咲いている一輪を見つけた。

この一輪でどうにかなるものなのか。そう思いながらもそっと茎を丁寧に折り、彼女の元へと戻ると、彼女は目元を拭って小屋に戻ろうとしている所だった。俺に気づいたのか少し小走りで俺より低い身長が駆け寄ってきた。

「暗いからあんまり走るな」
「大丈夫ですよ。そんなにドン臭くないです。そりよりどうしたんですか? どこか痛くて眠れないですか?」

すぐに人の心配をする彼女についさっきまで泣いていたくせにとそう思いながら喉で笑うと少し怒り気味にもう、何なんですかと頬を膨らませる。その様子を面白がりながら、どこも痛くねぇよと返すと良かったですと彼女は胸を撫で下ろした。その目元に見える涙の跡に少し心が苦しくなる。その苦しさを払うように手元に持っていた花を差し出すと彼女は目を白黒させ、俺と花を交互に見やった。

「やる。花とか好きじゃなかったらすまない」
「いえ、嬉しいです。でもちょっと高杉さんとお花って印象が程遠くて変な感じですね」

カラカラと笑う彼女に笑ってんならやらねぇぞと言うと俺の手から花を受け取り、戦の最中に咲いている花の向こうに見た笑顔を俺に向けた。

「笑ってしまってすみません。とても嬉しいです! 大事にしますね」

そう言って月明かりに花を翳しながら早く水につけてあげないとですねぇと呟く彼女の後ろ姿につい大丈夫かと投げかけてしまった。

「……もしかして、泣いてるところ見られてしまった感じですかね。大丈夫ですよ。皆さんのが辛いのに私が弱音を吐いていてはダメですよね。高杉さんの贈り物で元気が出たので私は大丈夫です」

大丈夫というがどこか、何かを堪えているように見える彼女の腕を思わず引き寄せて抱きしめてしまった。腕の中の彼女は嫌がる素振りは見せずに静かに俺の胸に収まる。

「んな顔して言われてもな」
「すみません」

別に謝って欲しいわけでもないのだが。慣れないながらに頭を撫でると彼女は堰を切ったように泣き出してしまった。頭を撫でていた手を背中に移しトントンと優しくあやしながら早くこの戦を終わらせねばと強く思うのだ。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -