好きだ。入学をしてバレー部に入った時に、彼女を一目見てそう思った。

今日もコートの隅でボール拾いや3年の先輩マネージャーの指示で機敏に動くひとつ年上の彼女はなぜか俺の目を引く。だが、今は練習の真っ最中。手も足も止めるわけにはいかなくて、視線をコートに戻した。

練習も終わり、選手はコートの外へ。マネージャーは整備や片付けとコートの中は人が入れ替わった。やはり、俺の視線は上杉先輩を探している。しかし、視界に捉えたはいいものの横にいたのは、女子から絶大な人気を誇る及川徹。及川さんは1度俺の視線に気づいたがすぐに気付かないふりをしながら、彼女とまた楽しげに話をしだした。そして彼もまた彼女に落とす視線が俺と同じものだということに俺は気付かないふりをする。

だが、心のどこかでは勝てないのだろうと薄く思っていた。別に好きだからといって、付き合いたいとかそばにいたいなどは漠然と思うだけで、実際に行動には移そうとは思わなかった、というよりそういう恋心というものを初めて自覚した俺はどうしたらいいのかわからなかったと言うのが正しいのかもしれない。接点も何も無いまま俺と先輩はマネージャーと一部員のままだった。

そして、及川さんと上杉先輩の距離も俺と変わらないまま中学を卒業していった。

卒業式の日、当然の様に及川さんの制服の第二ボタンはついていなかったが、その時に付き合っていたらしい年上の彼女に先に取られたと仲間内でふざけながら話しているのを聞いた。なんだ、他に彼女がいたのか。けれど、上杉先輩の事が好きという装いがよくわからなかったが、これが所謂チャラい男というものかと勝手に結論を出した。バレーは及川さんのを見て覚えた。恋愛については、自分には到底届かないような別次元の恋愛をしている、そういう人種もいるのだというのを見て覚えてしまっていた。

2年生になり、相変わらず1人で居残り、体育館を使っていた時だった。派手に響いたボール音と共に体育館の扉が開く音がする。他に誰か戻ってきて練習をするのであれば、ボール出しなど付き合ってもらおうと入ってきた人を見ると上杉先輩だった。上杉先輩は俺の自主練を横目に窓の戸締りの確認などをしに来たようだ。中学3年生になった上杉先輩は、マネージャー達の取りまとめ役になっていて、顧問からは部の管理を任される様になっていた。そうなると体育館の鍵の管理は彼女になる。

見回りに来たということはそろそろ自主練を切り上げた方がいいということだろう。自分の中でここまではやって帰ろうと目処をつけ、ボールを上げた。

上を見上げながらトス連をしていると、上の窓の戸締りの確認をしている上杉先輩の姿が目に入る。時々耳に髪をかける女性的な仕草に目がいってしまいそうになるのを我慢する。……何か違う鍛錬をしているみたいだ。余計な事を考えてしまうほどに、俺は上杉先輩が好きということなのか。変にそんな事を強く自覚をしながら、練習を終える。ボールを片付けようとしていると下りてきた上杉先輩が近づいてきた。

「あれ? もう練習終わり?」
「はい。上杉先輩が戸締り確認してたのでもう出た方がいいのかと……」
「そっか、そっか。ごめん、まだ練習してても大丈夫だよ。……ボール出しでもしようか?」

好きな先輩と部活後2人きり。青春という文字が頭を駆け巡る。すぐにお願いしますと返答をすると、ボールが入ってるカゴを移動させて、始めようかとにこやかに笑う先輩に目を奪われてしまう。

「どうした?」
「いや、何でもないです。お願いします」

今は練習に集中だ。気合いを入れ直して、コートへと戻る。先輩のボール出しで練習を再開して、ボールを上げれば意識はバレーへと集中し始めた。



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