私の家は草摩の中にある家系だったので、産まれた時から当然の様に十二支のことは知っていた。同世代に産まれた紫呉、綾女、はとりの3人とはよく一緒に遊んでいた。そして、私にはわからない物の怪憑きの辛さも間近で感じていた。

とある朝。物の怪憑きの5人が同じ夢を見たと楝さんに泣いて詰め寄った。それから少ししてお腹の中の子が女の子だと判明した日だった。楝さんが男して育てないのなら産まないと言い出して、相当暴れ回ったのだ。

結果的にご当主が恐れをなし、それを認めた。中のお付人の人達もこの騒動で疲れきっている最中、何故か私はご当主に呼び出しを受けた。私の家は草摩の中でもご当主の身の回りの世話というよりも外とのやり取りが多い家だったので、ご当主直々に呼ばれた事に両親はそれはそれは喜んだ。

悲しい事にやはりヒエラルキーというものは、それとなく存在しているのだ。紫呉がこの草摩は誰もが可哀想と言っていたのを思い出しながら、私は当主の部屋へと向かった。

物静かな部屋の前に隔てる襖を軽く叩き、ういですと言うと、中から落ち着いた声色でどうぞと聞こえたので、中へと入る。とても簡素な部屋にご当主の存在がよく映えていて、正座をして座っている向かい側へと立った。視線を上げたご当主と目が合うとお疲れの様子の中、優しく声がかかる。

「どうぞ、座ってください」

一礼をしてから座布団へと正座をする。遠目からしかお目にかかったことのないご当主を目の前に握った手のひらから汗がじとりと滲んでくる。

「今日はおさがわせして申し訳ありませんでした」
「いえ」
「話はもう耳に届いてますか?」
「はい。産まれてくる子は男として育てると……」

悲しそうに目を伏せたご当主は、それならば話しは早いですと一呼吸置き、また私と視線を合わせた。こんな大事があった日にご当主と2人きり。子どもの私には荷が重すぎて少し逃げ出したい衝動にかられてしまう。いつもはさほど気にならない正座も足が疼いてきてしょうがない。足の疼きを気にしながらも必死にご当主の言葉を聞こうと、顔を見た。

「物の怪憑きの子供達と距離が近い貴女にお願いしたいことがあって、お呼び立てしました」
「はい。お願いとは?」
「貴女には産まれてくる子どもの女の子の友達としていてもらいたいのです。普通に女の子として接していただきたい」

父親としての最後の抵抗なのだろうか。ご当主直々の最大の頼まれ事に少し驚いてしまった。もちろん、はいとしか返す事が出来ず深々とありがとうございますと頭を下げて、お礼を言うご当主にどう対応したらいいかわからないままその出来事は過ぎた。

家に戻ると両親は険しい顔をしていて、私は食卓のテーブルへと座らされた。ご当主に無礼をしなかったか、何を聞かされたのかと口々にまくし立てられる。ご当主に言われた事をそのまま伝えるとそれは、ご期待に応えないとねと嬉しそうな顔の両親を見て、子どもながらに可哀想と思ってしまったのだ。



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