携帯のアラーム音で起きる朝。洗面所に向かい顔を洗って、歯を磨く。簡単に朝食の準備をするついでにお弁当箱に昨日の夕食の残り物を詰める。朝食を済ませて、寝室へと戻りスーツに着替え出社をする。一人暮らしでアラサーのどこにでもある様な朝のルーティンを今日もこなす。

満員電車に揺られ、職場に到着し、業務を開始する。仕事もOLと平々凡々。だが、少し難があるのが人間関係。今日の日付は金曜日。仲がいい同僚がいれば、飲みに行ったりするのだろうが後ろのデスクから潜めた声が聞こえてくる。

「草摩さん、誘ってみようぜ!」
「ダメダメ。あの人金曜の夜から彼氏の家だから」
「そんな毎週な訳ないだろ?」
「それがさぁ」

聞こえてる、聞こえてる。付き合いが悪くて申し訳ないですね。それに彼氏の家に行ってるなんて誰が言い出したのだろう。まぁ、決まった曜日に彼氏と会うというのは、無難ではあるか。週末の休みが一緒なんてよくある話だし。

「……だから誘うだけ無駄」
「なら、仕方ないか」

居心地の悪い会話が終わり、話をしていた2人がそろそろお昼かと会話内容が変わった。私もそろそろキリをつけてお昼を食べようと考えながら、目の前の業務に集中をし直した。

--------本日の業務終了。みんなの顔もやっと休みだと晴れ晴れしてる。ただ、私にとっては仕事よりも気が重い"仕事"が始まるのだ。仲良さげに退勤をしていく中に混じりながら、今日の手土産を考える。きっと和菓子のが好きなんだろうな。それはわかってるが、私は今日洋菓子の気分だ。お気に入りの洋菓子店に寄り、店主のおばあさんと世間話をしつつ、今日のオススメだという小さめのクッキーをお買い上げ。手に白い紙袋を持ち、草摩の家に帰るのだ。

草摩の門を潜り中へ中へと進む。辺りが静かな部屋の前に気を落ち着かせる。最近は落ち着いているけど、あの人はいつ爆発するかわからない起爆剤を持っているのだ。私はいつも何も起こってない事を祈りながらこの部屋に毎週訪れる。

「慊人さーん、入りますよ」

丁寧に戸を引くと、低い机に突っ伏しながらこちらを見た慊人さんと目が合った。小さい声でおかえりと声をかけられ、ただいま帰りましたよと隣に腰を下ろす。ジャケットを脱ぎながら、慊人さんを見ると視線の先は白い紙袋。何だかんだ毎回私の手土産を楽しみにしている慊人さんは可愛いものだ。

「今日はクッキーです」
「和菓子が良かったんだけど」
「私がクッキーの気分だったんですよ。来週は和菓子にしますね」
「僕の気持ちを優先しろよ」
「私、エスパーじゃないのでその時の慊人さんの気分なんてわからないですよ」

いつもの憎まれ口を流しながら、紅茶の準備をしようと立ち上がると手を引っ張られた。直感的に何かあったのだと身構える。原因なんてこの草摩にはいくらでも転がっているのだから、それが大きい事なのか小さい事なのか。それとも慊人さん自身の気分が良くないのか。引っ張られるままに隣に座らされて、慊人さんと向かい合う体制になる。口元が少し楽しそうで、これでは良いことなのか悪いことなのかすらわからないではないか。良いことの方であってくれと淡い期待を抱く。

「何かありましたか?」
「紫呉の家に女の子を同居させる事にしたんだ」

なぜ? 何かを企んでいる? 紫呉と? たくさんの疑問が頭に浮かぶ。困惑している私の膝元に頭を置いて喉で楽しそうに笑い出した慊人さんに、少しだけ怖くなる。

「どうして? って思ってる?」
「そりゃあ、もう」

苦笑いしか出来ない私に教えてあげようか? と私を見上げる三日月の目と目が合う。体を起こした慊人さんは机に頬杖をつき、笑うのをやめた。

「あの女にわからせる為さ。これで僕の元にみんなが帰って来れば僕の勝ちだろ?」
「そう……ですね」

歯切れの悪い私の返答に少しイラついたのか慊人さんは勢いよく立ち上がり、私を指さしながら少し声を荒らげた。

「あの女に僕が勝てないって思ったのか?」
「いえ、そういう訳では。ただ、ちょっとその女の子を気がかりに思っただけですよ」
「ういは僕の事だけ心配してればいいんだよ。余計な事したらあの3人の自由が無くなること忘れてないよね?」
「わかってますよ」

これ以上話しを広げたら、面倒な事になりそうだ。私はザワつく心を抑えながら、お茶にしましょうと慊人さんの気を鎮められるように、声のトーンを優しく落とした。けれどそんな安易な事で、慊人さんの気持ちが収まるはずもなく、不服そうな顔は続く。

「本当はわかってないだろ。……いいよ、ういにもきちんとわからせてあげるから。はとりも紫呉も綾女も僕のものだ」

わかっていますよと同じ返しをすると、やっぱりわかっていないという顔をする。この子どもはいつまで意地を張り続けるのだろうか。けれど、私は大事な3人の人生をこれ以上めちゃくちゃにされる訳にはいかないのだ。

「わかっていますよ。その証拠に毎週来てるでは無いですか」
「……話し疲れた。早くお茶いれてきてよ」

少し納得したのか、やり取りが面倒くさくなったのかわからないが、まだ不満気ながらも、手土産に気が逸れたようだ。このチャンスを私も逃す訳にはいかない。では、早くいれてきますねと立ち上がり部屋を後にした。



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