本田くんに、雪が溶けたら何になる? と問いかけた。春になりますと答えた彼女に佳菜を見てしまった夜。気持ちが落ち着かずに、家の縁側で物思いにふけっていると明るい声が後ろから聞こえた。

「はーとり」
「何だ、案外早く復活したな」
「こういう事には慣れっ子だから、よくわかってるくせに」
「そうだな」

声の正体はういで、スーツ姿。仕事帰りに寄ったようだ。手にはコンビニの袋を片手に俺の隣に座ると袋から缶チューハイと缶ビールを絵柄が見えるように俺の前に差し出しどっちがいい? と聞いてきた。こっちでと缶ビールを指すとそのままどうぞと手渡される。

「ういが飲むなんて珍しいな」
「仕事で嫌なことがあってさぁ。聞いてくれる?」

俺の承諾も聞かずに、上司の愚痴をこぼし始めたうい。いつもの事なので、そのまま黙って聞いているとお酒のペースがすごく早いのに、相当ストレスが溜まっているのだとわかる。

「ほんとに有り得ない。自分のミスなのにこっちに押しつける様な言い方するし、そう指示したのはお前だろって。ほんとにムカつく」
「相変わらず大変そうだな」
「でも、同期とは仲良いから辞めたくはないんだよね」
「……そうやってちゃんと外で生きてこうとしてるのは偉いな」
「ちゃんと草摩にいるはとりの方が偉いと思うよ、私は無理矢理逃げちゃったから」
「それでいいだろ」

最後の一口を飲み干したういはスッキリしたーと伸びた声を出してそのまま後ろに倒れた。どうしよ、眠くなってきたと言うういに、ちゃんと家帰れよと言うと勢いよく起き上がって、俺の方を見る。……距離が近い。

「家、泊めてくれないの?」
「泊まるつもりだったのか?」
「全然。言ってみただけ。けど帰るの面倒だから久々にこっちの部屋に帰ろうかなぁ」

手持ち無沙汰に飲み終わった缶をくるくると横に回しながら、遠く見ている。表情が悲しんだり、笑ったりと忙しいういを見ていたら自分の中の暗いモヤが無くなっているのに気づいた。ういの様子を見ていたら自然と笑っていたらしくういがやっと、笑ったと俺の様子を伺うような姿勢で優しく言った。

「何か元気ないなと思ってたんだけど、どーしても先に怒りがきちゃって。ごめんね、何か気分じゃない時に付き合わせちゃって」
「わかってたのか」
「わかるよ。生まれた時からそばにいるし」

やっぱり帰るかぁと俺の飲み終わった缶を受け取りゴミ箱に捨て、そこら辺に置いていた鞄を持ってこちらを振り返る。じゃあねと小さく手を振って何事も無かったかのように帰っていこうとするが、お酒が入って少し陽気な足取りに不安を覚えて反射的に泊まってけと呼び止めてしまった。ほんとにいいの? と呼び止められるのがわかっていた顔をしながら、こちらを嬉しそうに見るういにやられたと思った。

「男に二言は無しだからね!」

そう言って、弾んだ声でお風呂借りるねーと部屋を出て行った。俺は自然と出てしまったため息と共に渋々、立ち上がりバスタオルやなぜかきちんと置いてあるお泊まりセットをクローゼットから引っ張り出す。自分で言ってしまった手前引き返せないので、やり場のない気持ちを抱えてしまう。やはり俺はこれからも紫呉や綾女と同じ様にういの面倒も見ていくのだろうと風呂から聞こえる呑気な鼻歌を聞きながら、寝床の準備も整え始めてしまうのだ。



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