「ういちゃん。どうしたんだい?」
「……何でもないよ」
「変な間があったけどなぁ。まさかこれからされる事考えちゃった?」
「やだー。エッチー」

視線の先を辿られない様に誤魔化すためおっさんの腕に腕を絡めて、足早にその場を離れた。ラブホ街、いかがわしいピンク色の看板が並ぶ街並み。今日も援交の為、適当に連絡をとったおじさんと会っていた。いつものように、ホテルに向かおうとしていたら見られてしまったのだ。そして、私も見てしまった。綺麗な女の人と歩いている養護教諭の高杉先生。

普段、こんなことをしていて夜寝ていないため保健室に通い、睡眠をとっている私。高杉先生はあまり気にも止めずに、寝かせていてくれたけどこれから行けなくなってしまった。

設定しているアラームがなり、目を覚ます。アラーム音が鳴っていてもまだ寝ているおじさんを横目に音を止めた。テーブルに置いてあるお金を財布にしまい、身支度を整え、ホテルを出た。帰る家が無いわけじゃないけど、家庭崩壊に近い家に帰りたくもない。これが私が援交している理由だ。

朝早くから空いているお馴染みの喫茶店でいつものモーニングを食べ、携帯をいじっていると案外あっという間に時間というものは、過ぎてしまうもので。トイレで制服に着替えて、店を出た。いつもより学校に行くのが気が重く足が進まない。保健室以外の逃げ場所を私は知らないから。教室にいない時間のほうが多いので、当然友達なんてものもいない。いないのは別にいい。今日から1日中教室にいるハメになってしまったのが面倒なのだ。やっぱ授業中に寝ていると怒られるものなのだろうか。そんなことを考えながら学校に着き1日が始まってしまった。

--------聞いていてもわからない授業がやっと終わった。担任からは改心したんだな、なんて言われてしまった。クラスの人からも珍しいといった目が向けられ少し疲れてしまった。さっさと教室を出ようとした時だった。

「そうだ。忘れていた。上杉」

教室を出た担任が何かを思い出したのか私のほうに戻って来た。一体何だ。

「高杉先生が保健室来いって言ってたぞ」
「……は、はい」
「なんかこの間保健室行った時に書く問診表みたいなのに不備があったらしいから確認してほしいそうだ」

何、その問診表。私書いたことないぞ。完全に説教という2文字が頭に思い浮かぶ。逃げられると思ったのに、向こうから来るなんて。高杉先生ってお節介キャラなの?

「わかりました」

返事をして、足取り重く保健室に向かう。どうあしらおうか考えているうちに、保健室の前についてしまった。中に生徒のいる気配は無いから人払いされているのを知ると余計に面倒くささが増してきた。ゆっくり扉を開けると、見慣れた白衣姿の先生。昨日見た私服の先生とまるで違う雰囲気。けれど、保健室の背景もラブホ街の背景もどういうわけか当てはまってしまう不思議な先生だ。扉を閉めると先生が近づいてきて、保健室の鍵を閉められてしまった。

「聞かれるとまずいだろ?」
「あの、説教なら手短にお願いします。もうここには来ないので」
「ここに来てたことが問題じゃないだろ」

とりあえず座れとソファに座らされる。先生もいつもの定位置に。

「何であんなことしてる? 金に困ってんのか?」
「んー、まぁ、そんなとこです」

手元の書類をヒラヒラさせている。何だ?

「これ上杉の個人情報」
「職権乱用ですか」
「可愛い生徒を守る為だろう? 上杉ん家サラリーマンの普通の家庭だろ?」
「それは確かですね」
「金に困ってないのはこれでわかるだろ」
「家庭崩壊してるんですよ。両親とも浮気してて私が高校卒業したら離婚決定です」
「……すまない」
「先生、遠慮できるんですね」
「うるせぇ。で、家に帰りたくないからあんな事してると。普通のバイトでいいだろう。今は漫喫とか安く泊まれるんだから」
「嫌ですよ。それにおじさんの相手するのは、嫌ですけどお金弾みますしご飯食べさせてくれますし、不自由はないですよ。あと、一般の学生よりお金あるんで派手に遊べますし」
「つまりは、遊びたいわけだな」
「ああ、ですかね」

何やら含み笑いしている高杉先生。次に言い出した言葉にこの人も相当だと思った。

「じゃあ、俺と遊ぼうぜ。今日から卒業まで俺と遊んでいればいい。飯も金も面倒見てやる。他にバレたらいけないってスリルもあるしな、どうだ」
「……馬鹿なんですか?」
「助けてやるって言ってんのに、その言い草はないだろ。学校にも両親にもバラして上杉の居場所無くすなんて俺には容易いからな」
「どこの悪役ですか……。わかりました。いいですよ」
「よっしゃ、今日からういは俺の下僕な」

先生、契約内容変わっています。了承をしてしまった以上この契約は交わされてしまった訳だ。というかさらりと呼び捨てされたし。

「下僕なんて聞いてないです」
「あ?」
「あっ。はいすみません。言うこと聞きます」

それでいいと先生は不敵に笑った。それを見て私はもう逃げられない事を悟ったのだ。



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