好きな人がいる。けれどその人はすでに将来も約束した人がいて。とても俺に勝ち目などない恋なのだ。

「日吉。何ボーッとしてるの? 早く行くよ」
「わかりました」

その人は同じ部活のマネージャーであるから、忘れたくても忘れられなくて。むしろ気持ちは大きくなるばかり。隣に当たり前のようにいるこの200人の部員を束ねる部長を横目にため息をつく毎日だ。

他校との練習試合での帰り道。学校自前の専用バスに乗り込む。部員たちは勿論気を使って上杉先輩と部長を隣通しに座らせようとするのだが、当の本人達は気にもとめず乗り込んだ順番から席に座っていくのだ。

急かされてしまった為に、俺の後ろに乗り込んだのは上杉先輩で。順に座れば上杉先輩の隣になれる。部長には申し訳ないとは思いつつも俺にもそれだけで嬉しくなる気持ちがあるのだと自覚した。やはり気にせずに隣に座った上杉先輩は、日吉と隣通しだと笑った。こんな手を伸ばさなくても肩と肩が触れ合う距離で笑わないでくれだなんて。

「日吉、今日は調子良かったね」
「そうですね。試合も近いですしこのまま調子を整えておきたいところです」
「そうだね。時期部長候補には頑張ってもらわないと」

そう言った先輩は記録ノートを取り出し、今日の練習試合の事を事細かに書き出し始めた。こう隣で改めてみるとマネージャー業は大変だと思わされる。いつも選手の体調に気を使い、気持ちよくプレー出来るように備品の管理など。それでもマネージャー達が疲れを見せずに仕事もこなしているのは、きっと上杉先輩に引っ張られてる所があるからだろうとやはりあの人の彼女だなとも思わされた。

別の日の部活終わりの時だった。もう少し残って練習がしたかったので、マネージャーに許可をもらいコートに入ると隣のコートに部長も残っていた。何かアドバイスでもと思ったが、声をかけるのをやめてボールを構えた。少し休憩を挟みながら自主練をする。水分補給中に部長を見ると凄まじい集中力を目の当たりにした。普段の部活中は、部員のアドバイスをしている姿をよく見る。自分の練習はその合間を縫ってしているようなので、きっと本当はもっと時間が欲しいのだろう。そんな事を考えるが来年は俺がその役割をしていかないといけないのだ。今、自分の時間がとれるこの時を大事にしようと考え直し今日の練習を終えた。

部室で着替えをしていると、部長も練習を終えたのか部室に入って来た。お疲れ様ですと挨拶をして、荷物をまとめて部室を出ようとしたらそういえば、さっき見てた時に思ったんだが……と思いもかけずにアドバイスをいただいてしまった。自分の事に集中していたはずなのではと部長に驚かされる。しっかりアドバイスを受けありがとうございますとお礼を伝える。そして、流れで。ほとんど無意識で聞いてしまったのだ。今日上杉先輩は先に帰ったのかと。

「何で日吉がそんなこと気にするんだ?」
「いや、別に。いつも仲良さげに帰ってるので、少し気になっただけです」
「そうか。……今日は遅くなるから帰りは別だ」
「そうですか。……では、俺はこれで」

部室の扉を開けたと同時においと呼び止められた。振り返って何ですか? と問おうとしたが次に続いた言葉に時が止まった。

「日吉はういの事が好き……なのか?」

何で、何でそんな事まで見抜かれなければいけないのか。そんなに俺はわかりやすいのか。何より本当に部員をよく見ているなという悔しさ。開けかけた扉を思いっきり開いた。

「それは、違いますよ。では、また明日」

部長の顔が見れなかった。帰路につきながら思い浮かぶのは上杉先輩がバスで隣に座った時に真っ先に仕事を始めた姿だった。どちらも自分のやらねばいけない事に真っ直ぐで、お似合いな二人だと改めて思い知ってしまった。上杉先輩が部長の隣で笑って幸せならそれでいい……なんてそんな考え。大人すぎて俺にはまだ理解が追い付かないんだ。

title:アメジスト少年



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