右の頬がヒリヒリと痛む。これは最近他の十二支と喋りすぎた罰なのだ。勢いのまま私の胸倉を掴む慊人さんはこの世の終わりの様な泣き顔をしていて、私の中の物怪は必死に謝ろうとしている。振りかぶってるその手は強く握りしめられていて、その手が顔を直撃したらそこそこの怪我をするのかなと抵抗もせずに冷静に考える。怪我をしたらはとりさんに看病してもらえるかもと現金な考えさえ出てきて。覚悟を決めて目を瞑って痛みに耐えようとしたら、慊人さんの手が離れていった。
恐る恐る目を開けると暴れそうになっている慊人さんを後ろから抱き留めるようにしていたのは、はとりさんだった。耳を劈く様な泣き声の中、はとりさんは顎で襖をさし口パクで行けと言った。私はすぐその指示に従って部屋を出た。泣き声が遠ざかっていく中、私も発狂したらはとりさんに抱きしめてもらえるのかななんて場違いな事を考えてしまった。
部屋に戻る途中後ろから子どもの声がうい、うい! と近づいてきた。少し忙しい足音の後、重い体温が背中に飛びついてくる。
「久しぶりだね、紅葉」
「そうだねって! ってういそのほっぺたどうしたの?」
私はまだ他人が見て赤いのであろう頬を撫でながらちょっとねと返すと紅葉は何かを察したのか私の背中から離れた。
「僕と話してるとまた慊人怒っちゃうね」
「まぁ、こんな事しょっちゅうだからいちいち気にしてられないけどね。……紅葉、少しお話しようか」
いいの? と心配そうに私の顔色を伺う紅葉に大丈夫、大丈夫と慊人さんの部屋から遠くにある縁側に2人で座り込んだ。夜空を見上げると今夜は十三夜。紅葉にぴったりの日だなと口元が笑っていたのかとりあえずういが元気そうで良かったと紅葉が安心した優しい声でそう言った。
「心配してくれてありがとうね。紅葉も紅葉で大変なのに」
「僕は大丈夫だよ。それよりういもなかなかに慊人に反抗するよね。それはそれで大事な事なのかもしれない……」
「反抗って言うよりは、どうもならない事を禁止されてもねぇ」
私が力なく笑うと紅葉も同じ様な顔をしていたのが面白くてそのまま笑ってしまうと不思議な顔をされた。その無邪気な様子にドロドロとした感情が晴れていく。
「紅葉、ありがとう。元気でたよ」
「なら、良かった」
輝くような笑顔を前にまだ慊人に押し潰されずにみんな生きていこうとしているのだ。私も閉じ込められているのを言い訳にするのは止めようと前向きにさせてくれる紅葉はすごいなと勝手に感心をしてしまった。