夕方あたり、慊人さんのお相手も終えて自室に戻る途中にもう1匹の猫とすれ違った。絶対に目が合ったのに、目を逸らされたので近づこうとしたら向こうもそれに気づいたのか早足で逃げようとした。

「夾くん、待ってよ」
「待てって言われて待つ奴がいるかよ」

そう言いながらも私が追いつくと振り返って足を止めてくれる夾くんはどこまでも優しいんだろうなぁ。

「何で逃げるの? っていうか本家にいるなんて珍しいね? 何か用事?」

疑問の投げかけにうんざりと言った顔の夾くんは、とりあえず部屋入るぞと私の腕を引っ張って私の部屋へと入った。

「夾くん、いつからそんなに大胆になったの?」
「慊人に見られてもいいのか? 俺と話してるのが1番気に触るのはういも知ってるだろ?」

ため息をついて、床に胡座をかいた夾くんは立っている私も座れと言ってきた。この部屋は私の部屋なんだけどなぁ。でも、これ以上からかうと可哀想だから止めておこう。

「で、何で逃げたの?」
「別に逃げたわけじゃ」
「じゃあ、何で本家にいるの?」
「別に何でもいいだろ。ただの用事だ」

いつもは結構普通に話しをしてくれるのに、今日は早く帰りたいのかはわからないがどこかよそよそしい感じがした。

「夾くん、何か急いでる?」
「別に急いではないが……」

何か言いたげに目を逸らされた。何かを隠しているのだろうか。別に私と夾くんの間に今更隠し事があっても気持ちが悪いだけなので、私は直球で言葉を投げかけた。

「私に聞きたい事でもあるの?」
「…………紫呉と付き合ってるのか?」
「え?」

何をどうしたらそう言う発想に至るのか。それか夜、一緒にいるとこを見られたとしか思えない。

「どうしてそうなるの?」
「この間本家に来た時、ういと紫呉がその、キスしてるの見たから……」

キスの辺りから言葉尻が小さくなっていく。顔も真っ赤でその言葉を口にするのが恥ずかしいのか口元を手で抑えて顔を逸らされた。

あの日の事を言っているのか。もしかしたら紫呉は夾くんの存在を知っていてキスをしてきたのかもしれない。本当に喰えない男だ。

「夾くんって今紫呉の家にいるんだっけ? 紫呉にも直接聞いたの?」
「んな事聞けるわけねぇだろ」
「だよねぇ」

けど、紫呉ならおもしろがって夾くんの事をすでに突っついて遊んでそうだから、紫呉も素知らぬ振りをしているのだろう。それはそれでいい。それはそうとして、誤解は解いておかないといけないので、私は付き合ってないよと答えた。

「そうかよ」

じゃあ、何でキスしてたのかって顔に書いてある。わかりやすい性格だなぁ。

「多分、紫呉は私を利用するために近づいているんじゃない?」
「ういはそれでいいのかよ。だって、ういははとりが好きなんじゃ」
「それ以上言わないでよ。私だって良くない事くらいわかってるよ」

きっと夾くんなりに心配をしていてくれているのだろう。毛色は違う猫の物怪同士だけど、同じ猫同士昔から共感し合えることが多かったから。

「それならいいんだ。……帰るわ」
「うん」

立ち上がり襖を開けた夾くんの後ろ姿に心配してくれてありがとうねと言うと、手を上げてそのまま帰って行ってしまった。

それにしても、紫呉がわかっていてしたのかたまたまだったのか。気にはなったがこれ以上考えると紫呉の悪い面しか見えないことは確実。脳内に浮かぶ紫呉の顔が不敵に笑っているので、この一件は私の中で無かった事にして大学のレポートを片付けようと気持ちを切り替える事に専念をした。



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