朝、学校に登校すると飛び交うおはようの声。クラスに入ると週末はどこに行ったとか昨日見たテレビの話や勉強の話。そんな普通の学校と変わらない光景。そこには跡部景吾という一際目立つ存在の人物もいるのだが、こうして教室でクラスの友達と会話をしている姿を見ると彼も普通の中学3年生と何ら変わりはないのだなと思わせられる。

数人の友達と自分の席に座って会話をしている跡部くんの席の横を通り、自分の席に着く。周りの友達に挨拶をして机の中の整理を始める。そう、私はこの間の席替えで跡部くんと隣同士になったのだ。同じクラスでも羨ましがられること必至なのに、隣の席だときたら一体何人の人たちに羨ましがられることなのだろう。例に漏れず私の別のクラスの友達に話すといいなぁ、交代して欲しいと興奮気味に言われたのはつい先日の事だった。

私はと言うと彼にそこまで興味は無い方だ。テニス部の部長でこの学校の生徒会長。その点私は部活はしていなくて、普通の図書委員と平凡な生徒。跡部景吾という人物はどこかしらすごい人という認識でしかない。予鈴が鳴りみんなが席に戻っていく中、隣の彼からおはようと挨拶をされ、私も挨拶を返した。こんな平凡な隣の席のクラスメイトにさえきちんと挨拶をしてくれる跡部景吾はとても優しい人物だという事を最近知った。

全ての授業を終え帰宅の途中、今日中に読み切りたかった本を教室に忘れてきたのを思い出し少し戻るのは面倒だなと思いながらも続きは気になっていたので、学校へと引き返した。

教室に戻ると跡部くんだけが残っていて何やら書類を書いている。さっきテニスコートの横を通ったらテニス部は部活をしていたけど彼は行かなくてよいのだろうかなどそんな事を何となく考えながら席に本を取りに行った。

「忘れ物か?」
「うん」

頬杖をつきながらこちらを見てくる彼の容姿が整い過ぎていて思わず目を逸らしてしまった。神様は気まぐれにしてもなんていう綺麗な人物を作り出してしまったのか。かと言ってそれほど彼のスペックを羨ましいと感じた事は無いのだが。

「それ、ちょっと前に流行ったミステリーだよな」
「うん。最近になって気になって来ちゃって」
「あぁ、なんかわかるな。流行ってる間よりちょっと遅れてから手をつけるってやつ」
「そうそう。流行りには乗りたくないけど知ってはおきたくなるんだよね」
「俺もそれ気になってるんだが、まだ買えてもなくてな」

書類に目を戻しながらそう言った彼。私は本の表紙を見つめる。別に読み終わってしまったら読み返す事はあまり無いしこのまま持ち帰って読み切っても部屋の本棚に並ぶだけ。

「今日読み切る予定だから明日持ってこようか? 貸すよ?」
「いいのか? ちょっと返すの遅くなっちまうけど」
「それは全然。次の本買ったからしばらく読み返す事も無さそうだし」
「じゃあ、頼むわ」

そう微笑む顔はやはり心臓に悪い。心臓の音を誤魔化すように了解と返し、忙しそうなところ邪魔してごめんねと続けると根詰め過ぎもよくねぇからなとその場で背伸びをしてから、腕を伸ばして軽くストレッチを始めた。きっと早くテニスしたいんだろうなぁ。

「跡部くんはそれ生徒会の仕事?」
「ああ。今度2年の行事イベントがあるだろ? それの確認だな」
「生徒会長って大変だねぇ」
「まぁ、別に普通だろ」

そう言って判を押して、書類を纏めた跡部くんは立ち上がった。

「終わった、終わった」

鞄と書類を手に嬉しそうな顔をしている跡部くんはこれから好きなことが思う存分できる少年のように笑顔だった。

「お疲れ様。私もそろそろ帰るね」
「おう、じゃあな」

手に持ったままの本を鞄にしまって、私は元来た道を引き返した。



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